
「ブレードランナー」キービジュアルの巨人たち その1 アルビン&ストルーザン
今回は、映画「ブレードランナー」のビジュアル面を支えてきたアーティストを紹介する。
まずは「ブレードランナー」の劇場公開当時、アメリカでのメインビジュアルだったのが、ジョン・アルビンのポスターだ。
以下、貴重なバリエーションを紹介する。
これは、ポスターだけでなく、あらゆる媒体で引用された、キービジュアルのデザイン。
『アルヴィンの「ブレードランナー」のポスターは、これらのキャラクターの精神を失うことなく、実際のモデルからできるだけ距離を置いている。
ジョン・アルヴィン自身がそれについて解説している。
ハリソン・フォードをデッカードとして描いていたとき、アルビンが持っていた唯一の資料は、衣装を着たハリソンの切手サイズの画像だった。
アルビンはデッカードを描くために、宝石の輪っかと虫眼鏡を手に入れなければならなかった。
アルビンにとって、衣装を着た俳優の最適な資料が不足している問題を解決する、または回避策になると考えたのが以下の要素だ。
強烈に照らされた顔の輪郭や、角度のついた光線など、フィルム・ノワール映画のポスターでは非常にポピュラーで定番化しつつも、ザラついた表現を利用すること。
「ブレードランナー」アートの、光のカケラ一つとっても、かつてフィルム・ノワールを宣伝していた当時の光の使い方を、現代風にアレンジしたものだったのである。』
※「The Art of Blade Runner by John Alvin」より抜粋(翻訳)
これは、ボツ案。
完成版に登場する要素や、構図がすでに表れている。
以外にも、ブラスターのフォルムは、完成版よりも「らしく」描かれている。
初期案の一枚。
ロイがメインになっている面白い構図。
デッカードが木偶の坊っぽくていいよね。
初期案。
こうしてみると、様々なデザイン案の中から、気に入った要素を組み合わせて完成版に至ったと分かる。
これは、映画公開後に、改めて描かれたという1枚。
商業用ではないのかも。
ジョン・アルビンは、「ブレードランナー」はお気に入りの映画の1本として、この映画を題材にした作品枚数も多い。
『ジョン・アルビンによる「ブレードランナー」のイメージの流れは、デッカードとバティの間の対立を横断するだけでなく、父としてのタイレル、そしてロイのレプリカントの”家族”も捉えている。
これは、現在販売されているジョン・アルビンの「ブレードランナー」を表す唯一のグラファイトだ。』
※前掲「The Art of Blade Runner by John Alvin」より抜粋(翻訳)
そして、僕が一番好きな「ブレードランナー」のイラストは、ドリュー・ストルーザンのポスターだ。
公開当時は、残念ながら小説のカバーなど、二番手扱いだったが、2007年のファイナルカット公開を機に、一気に表舞台に躍り出た。
これが、2007年版のメインビジュアル。
ストルーザンの公式HPには、彼の想いがつづられている。(翻訳)
「私がこの作品に取り組み始めたのは、スタジオからポスターのコンセプトを模索するよう依頼された 1982 年のことでした。
最初は、コンプリヘンシブ(あらゆる要素を網羅した叩き台)のイラストを単色で描き、そこからスタジオの要求に応じていくつかの変更を加えました。
結局、私のデザインは採用されず、完成したイラストを描くことはありませんでした。
2001年、リドリー スコットがブレードランナーの新しいディレクターズカット版の公開を検討していたとき、82年の私のオリジナルスケッチをポスターに使用できるかどうか尋ねられました。
これがリドリーのお気に入りの作品だったことが判明しました。
私は、良くあるアーティストの悩みを経験しました。
ポスターにコンプリヘンシブを使用するよりも、完成したアートを使用する方がよいと考えました。
そこで、仕上げを描く場合は20年前のデザインにするか、更新するかを決めました。
私は後者を選びました。
DVDがようやく制作され、これが現在の採用されたデザインです (2007 年)。
右下隅に「drew 2003」と署名と日付が記されています。」
そしてこちらが、1982年公開当時に、P.K.ディックの原作小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」のカバーとして採用された作品。
もともとは、このデザインを映画のメインビジュアルとして描いていた訳だね。
その後、原画が紛失したと言われている。
思うに、ストルーザンのビジュアルがメインに採用されなかった理由は、SF色が希薄だったからかもしれない。
フィルムノアール色が全面に出ており(そこが僕の大好きな部分なんだけれど)、逆にアルビンはしっかりとSF映画だと分かる構成要素だった・・・。
この差だったのか。
そもそも、映画用のポスターデザインは、当時は今以上に興行成績を左右する重要なアイテムだった。
一発でどんな映画なのかを人々に分からせる使命を担った商材だ。
それでなくても「ブレードランナー」は、アクションがほとんどないSF大作映画だから、売り方に困まったはずだ。
【映画ナビゲーター深堀菜美からのひとくちメモ】
以下に紹介するのは、ジョン・アルビンとドリュー・ストルーザンの作品集だよ。
日本からも購入できるから、よろしくね~。