こんな夢を見た。「死者からの贈り物」
備忘録も兼ねて、大学時代に見た、ちょっと怖い夢を一つ。
夢の中で、僕は大学のある女の子を好きになっていた。
しかし、その子は別のイケメン男子と仲良くしてばかり。
ある日、僕は思い切って、そのイケメンのアパートに押しかけ、彼女と別れてほしいと伝えた。
当然、僕は相手にされず、もみ合いのケンカ状態に…。
すると、(お約束な展開だけれど)相手が転んで机の角に頭をぶつけて、倒れてしまった。
僕が慌てて頭を持ち上げようとすると、手がヌメッとした。
後頭部が血まみれだったのだ…。
あまりのことにうろたえていると、突然ドアが開いた。
愛しの彼女だった。
手には果物などが入ったビニール袋をぶら下げている。
彼女の凍りついた顔は、みるみる蒼白になっていく。
倒れたイケメンを見て、次に、血塗られたイケメンの頭部を抱えた僕を見た。
「キャー!!」
あまりにも大きな悲鳴を上げて、彼女は目をつむった。
僕は、彼女の悲鳴に驚き、言い訳する前に、彼女を押しのけて玄関を飛び出た。
遠ざかるアパートから悲鳴は続いていた。
とにかく、手についた血を洗いたくて仕方がない。
商店街を一気に掛け抜け、人通りの絶えた路地裏に入る。
すると、うらびれた雰囲気の古本屋が目に入ってきた。
素早く店内に。
客はいないようだ。
奥にはレジがあるけど、店主らしき爺さんが夢中で何かを読んでいた。
僕は、近くにトイレを見つけると、中に滑り込み、素早く手を洗った。
血を洗い流して、少しだけ落ち着いた僕は、店内に戻り、整然とならぶ古本たちを眺めながら、これからどうするかを思案する。
彼女に、僕とイケメンがどう映ったのか。
たぶん、僕がイケメンを殺そうとしていたと思ったに違いない。
あれはアクシデントだったのに…。
もしかしたら、既に警察が動いているかもしれない。
イケメンはどうなったのか?
119番に電話するべきだったのか…
生きていて欲しい…。
すると、変なタイトルの本が目に入ってきた。
「呪いの書」
(直球なタイトルだけど、夢だからご容赦を)
経年劣化が激しく傷だらけで、文字も掠れている。
明治か大正か、とにかく古い文語体だから読みにくい。
僕は手に取り、パラパラとページをめくる。
すると、気になる一文に突き当たった。
なぜかその文だけ、すぐ理解できた。
「もし、あなたが自ら手にかけた相手の遺品を受け取ると、とんでもない何かが起こる。」
自ら手にかけた相手…。
その遺品を受け取る…。
とんでもない何か…。
すぐに僕は、イケメンの事を連想した。
とはいえ、彼の遺品を受け取るなんてあり得ない。
第一、まだ死んだと決まってないではないか。
生きていて欲しい…。
「◯◯だな?」
背後で、僕の名を呼ぶ声がした。
警察官だった。
警察署に連行された僕は、取り調べを受けた。
イケメンが、即死だったことも告げられた。
人生終わったと思った。
すると不思議なことに、事情聴取をしていた警官が、「君に渡したい物がある。」と言って、ある物を机の上に置いた。
カナダライだった。
今では珍しい、銅製のタライ。
意味がわからない。
「なんですか、コレは?」
「君が殺めた〇〇君が大事にしていた品だ。」
あのイケメンがカナダライ?
それも大事にしていた?
なんで僕に?
疑問だらけだったからなのか、警官は続けた。
「彼のご遺族からだ。なぜか分からないが、君に是非もらって欲しいらしい。」
(色々突っ込みどころ満載なのは分かります。ただ夢だからなのか…僕は驚く返答をする。)
僕は、なぜか受け取るのが筋だと思い、カナダライを受け取ったのである。
1人の警察官と留置所に向かう。
僕は左脇にカナダライを抱えている。
ふと気が付くと、隣にいたはずの警官がいない。
周囲を見ても、誰もおらず、うす暗い廊下が闇に吸い込まれているのみ。
僕は急に心細くなり、この場から立ち去りたい衝動にかられた。
留置場へは、この階段を降りた先だと(なぜか)知っていたから、慌てて階段を降りようとした。
階段を降りながら、段数を数えてみた。
13段ある。
突然僕は気が付いた。
「自分の殺した相手の遺品を受け取ると何かが起こる」とは、この13階段で足を滑らせて転がり落ちる事ではないのか…。
首つりの死刑執行の13階段のように…。
恐怖と、早く立ち去りたい一心で、僕は(止せばいいのに)慌てて階段を降りてしまった。
無事に下の階に降り立った。
正直、階段を転んで死ぬと思ったので、一気に、緊張がほどけた。
この廊下の奥に留置場がある。
僕は、カナダライを抱えながら、暗がりの廊下を進んだ。
ふと、奥に人影が見えた。
太った体型をしている。
誰だ?
いや、何かがおかしい…
僕の動きに応じて、シルエットも同じように動いている。
それは、姿見に映る僕の姿だった。
なぜかは分からないけれど、奥に伸びる廊下の途中に、大きな鏡が置いてあるのだ。
そこに、僕の姿が映っていたのである。
一体、なぜこんなところにこんなに大きな姿見があるのか…。
僕は大きな鏡に近寄ると、しげしげと観察した。
その時だ。
鏡の奥、つまり、鏡の置いてある場所よりもずっと奥の方から、足音が聞こえてきた。
ぺた…ぺた…ぺた…。
微かな足音は、ゆっくりだったけれど、徐々に大きくなってきて、速度も増しているようだ。
僕は、”絶対に姿見の奥を覗いてはいけない”という、強烈な何かを感じ取り、足早に、元来た階段に逃げようとした。
しかし、足が動かない。
その間にも、足音は近づいてくる。
ぺたぺたぺたぺた…‼
もう、完全に駆け足状態になっている足音。
逃げたいのに、身体が動かない。
タッタッタッタ…‼‼‼
瞬間、姿見が揺れた。
ガラスが粉々に飛び散り、何かが飛び出してきた。
僕には、それを確認する時間はなかったけれど、それが何かは良く分かっていた。
【完】