「未来世紀ブラジル」幻のハッピーエンディング版はこれだ!! | 映画復元師シュウさんのブログ

「未来世紀ブラジル」幻のハッピーエンディング版はこれだ!!

観てきやしたぜ!
 
午前十時の映画祭にて「未来世紀ブラジル」!
 
いやあ、劇場で観たのは本当に久々だ。
やはり、ギリアムのイマジネーションに圧倒されっぱなしだった!
 
このカルト大作を、今の若い人たちがどう観たのかが気になり、事前にツイッターで「未来世紀ブラジル」のワードを検索してみた。
 
すると、今の若者ではなく、僕と同年代(40代、50代)と思われる方々からの熱い反応がいっぱい溢れていた。
(まあ、当たり前か…。)
 
その中には、「公開当時にパッピーエンド版を観た」「ハッピーエンド版は、ラストをバッサリ切った版だった」などなど、ハッピーエンド版に対する言及がチラホラあった。
 
ハッピーエンド版とは、ギリアムの意に反して、ラストをハッピーエンドにすげ替えたプロデューサーズ・カットの事だ。
 
日本では、このバージョンは一度も公開された事がないと聞いていたため、それを「かつて観た」というツイートに、俄然、真相を確かめたくなったのだった。
 
そこで、「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」日本公開版の復元でも行ったように、ツイッターで広く皆様から、日本で公開当時に観たバージョンを質問してみたのだ。
 
 
すると複数の方々より、「未来世紀ブラジル」のバージョン違いについての情報が寄せられた。
ここに載せた「海外ビデオ・セレクション’90」の抜粋は、yos-227(マグナビジョン高橋)さんが寄せてくださった記事だ。
 
今回、他にも情報を寄せてくださった全ての皆様には、熱く(厚く)御礼を申し上げる。
さて、記事の〇で囲った部分を読んでほしいのだが、この記事が発売になった90年時点で、「未来世紀ブラジル」には4つのバージョンが存在していた事が解説されている。
 
先に紹介したハッピーエンド版とは、この記事では「D」に該当する。
これは(ギリアムが望んでいた)バッドエンド版の未使用カット(というかNGカット)で構成されたバージョンで、記事によると(アメリカの?)テレビでも放映されたらしい。

だが、日本での上映もテレビでの放映についても言及されていない。
やはり、公開当時に観たという感想は、思い違いな気がする。

とは言え、実は僕もかつてこのバージョンを観たことがある。
それは、アメリカのクライテリオンから発売されたDVD‐BOXに特典として収録されていた。
いやあ、とにかく酷い内容だった!
使用されなかった「カス素材」をメインにして編集されているから、画が繋がってないし、画質も酷い。
そして何よりも、話を無理矢理にハッピーエンドに持っていくから、何が何やらサッパリなのだ。

 

 

なんと、今回そのラスト部分だけ、ネットにアップされていたので、とくとご覧あれ!!

これは、通称「愛は最後に勝つバージョン」と呼ばれている。

 

いかがだろうか、普段では観られない貴重な映像がいっぱいあるのは分かるが、とにかくエピソードがぶつ切り過ぎるんだよね。

 

このハッピーエンド版について、ツイッターではこんなご意見を頂いた。
「公開当時にハッピーエンド版を観たというのは、まずユニヴァーサルが本当に再編集して無理矢理それに作り変えた(つまりラストのオチを丸々カットした)版が間に合わずお蔵入りになった事から考えてもあり得ません。 
もしかしたらギリアム自身が手を加えたUS版の、サムの背景に空が合成された版を観てそう解釈している可能性があります。
空がディゾルヴされたおかげでサムの心だけは自由とも受け取れ、ある意味ハッピーエンドと解釈することも出来るので。 
US版は輸入ビデオが日本公開より先に入ってきており、それを観た人がそう証言しているとも考えられますが、いずれにしてもハッピーエンド版を観たというのはラピュタのエンディングを巡る都市伝説に近いものがあるのではないかと思います。」
 
ぴくナゲさんが言及しているのは、先ほどの記事だと「C」のバージョンに該当する。
僕も、この意見に賛成だ。
 
なぜなら公開当時には、海賊版のVHSがレンタル店に出回っていて、僕も借りた事があるが、(今思い返すと)これが「C」のバージョンだったからだ。
 
ちなみにこの海賊版は、制作者が独自に日本語字幕を入れたモノだった。
 
オープニングは、青空の中に、時刻のスーパーが被り、ラストも拷問場の引き画に青空がディゾルブされる。
 
驚いたのは、サムがズダ袋に入ったまま、役人から様々な罪状を告発される場面や、ヘルプマンに突き放されるシーンがバッサリカットされていた事だ。
 
ズダ袋を取られたら、既に拷問場(処置場)に居るようになっていた。
 
だから、ジルの行方がどうなったのか、全く分からず仕舞いであった。
 
これまで僕は、ここが丸々カットだったのは、海賊版制作者の仕業だと思っていた。
 
あのシーンは、畳み掛けるセリフの量だから、字幕を付けるのが面倒くさくなって、いっそカットしてもいいだろう、と業者が企んだと睨んでいたのだ。
 
だが今回のリサーチで、多くの方から「それは「C」のUS版だと思う。」というご意見を頂き、「C」の内容が海賊版の記憶とピッタリだったので、日本でも公開当時にUS版を観られる機会があったと、僕も考えを修正した次第だ。
 

では、今回の「午前十時の映画祭」で上映されたバージョンは何だったのか?

これは、現在ブルーレイで発売されているバージョンだった。

便宜的に「E」とでもする。

 

 

これは、先ほど紹介した記事のうち、一番最初に編集された「A」の冒頭部分を「C」に差し替えたものだ。
 

詳しく説明すると、冒頭「午後8時49分」「20世紀のどこかの話」というテロップ部分が、「A」だと黒バックに青文字で、音楽は一切なしであった。それに対し、この「E」では、テーマ曲が流れる中、主人公サムが空を飛ぶ映像がバックになりテロップが黒文字で出るという代物だった。

 

ソフトの発売に際し、ギリアムたっての希望でこの差し替えが行われたようだ。

 

この第5のバージョンが上映されるのは、今回が初めてな気がするがいかがであろうか?

 

とにもかくにも、未だにあの切ないテーマソングが、それもサム・ラウリ―が虚空を見つめながら歌う、あの声が耳から離れない・・・。