毎週日曜の朝に「NHK俳句」という番組が放映されています。これまでも時々見てはいたのですが、私も番組に合わせて、下手でも一句ずつ作ろうかと思うようになりました。できるだけ続けていこうと思います。

 

 今回の兼題は「電車」でした。地方出身の人間としては、故郷の国鉄の列車は汽車であって、電車になったのは結構最近です。複線化は未だ成っておらず、途中の駅で普通列車のほうが待たされます。車体も一両だけのワンマンカーとなって、路線バスと変わらなくなりました。それでもよっぽどのことがない限り満員にはならず、座席に座れるというのは嬉しくもあり、残念でもあります。

 

 すれ違う市電の灯り雷遠し

(すれちがう しでんのあかり らいとおし)

 

 列車の話をしておいて、実際に詠んだのは路面電車です。俳句だと、路面電車は市電とも呼ぶようです。わたしの人生でも、電車と言えばこちらの路面電車のほうですね。高校に通った三年間、お世話になりました。毎日、授業についていくのが大変で、電車の中でも教科書を開いて、宿題や予習をやっていました。お陰で目は悪くなる一方で、電車からの風景など眺める余裕などありませんでした。

 あの頃は随分勉強したなあと思い出しつつ、この前帰省した時久々に電車に乗ってみました。車体は新しくなっており、料金も少し上がっていました。乗り込んだ時、新しい車体なのに中の広さが狭い様に感じたのは、夕方で薄暗かったせいなのか、自分の身体が高校生の時よりも大きくなっていたからでしょうか。それでも、走る速さは当時と変わらず、信号機でのんびり止まるところは路面電車でしか感じられない感覚です。路線の周りの様子は変わりましたが、時間の流れる速さはあの頃と変わらないようです。信号が青になって再び走り始めると、向こうからも信号待ちしていた電車がやって来きました。その電車は珍しく昔の古い車体で、丸みを帯びた鉄板の厚い重そうな車形にオレンジ色を基調とした塗装が色褪せています。すれ違いざまに覗いてみたら、当時高校生だった自分の懸命に教科書を読んでいる姿が車内の灯りに浮かんで見えたような気がしたのですが、長い人生のたった三年間の期間なのに、電車には様々な思い出が詰まっています。

 

 大学生になって初めて都会に出た時、初めて乗った路面電車ではない電車、その電車からの風景で車窓から左右両方に送電線の電柱がどこまでも続いている様子を見て、驚いた記憶があります。駅の数も多いし、どの駅でも大勢の人が乗り降りして、乗り込んだと思ったらすぐに出発です。便利で何処にでも移動できましたが、時間に追われているようで、これもまた都会なんだなあと驚きながらも感心していました。今では時間にすっかり追い越されてしまったので、ゆっくり走る故郷の電車に愛着を感じます。