『会報 201811月号』(発行:東京都社会保険労務士会)より

 

現在、いじめやパワーラスメントについて、法令で定義づけはされていません。また、実務上パワーハラスメントに該当する言動かとうかを判断するにあたっては、適正な指導か行き過ぎた違法な行為と評価されるかの見極めをしなければならない場面も多くあります。

今回、裁判例にみるパワーハラスメントの概念の整理と裁判例に見る具体的な判断事例について解説した特集がありましたので、要旨をまとめてみました。

今回は、具体的な判断事例についてです。

 

2.具体的な判断事例

(1)暴行等が問題となった事案

元社員は、社内テストでの不正、無断欠勤、顧客からの注文や依頼等の放置、顧客から集金した現金を直ちに会社に入金しなかったなど、数々の問題行為をしていた背景かおり、さらに、元社員に金融業者の借入があることが発覚したため、上司が一定期間、財布と通帳を点検していました。この点「使用者といえども、従業員の私的領域にわたる指揮監督権を有するものではないことは当然であって、所持品検査を行うことが正当化される余地はない」と判断されました。

 

(2)脅迫、名誉棄損、侮辱、ひどい暴言の事例

当該社員の上司の言動として、「存在が目障りだ、居るだけでみんなが迷惑している」「お前は会社を食いものにしている。給料泥棒」などの一連の発言が、社員のキャリアを否定し、会社で働くことを否定する内容であるうえ、社員の人格、存在自体を否定するものであり、過度に厳しく、上位である強い立場の者から発せられることによる部下の心理的負荷は過重であると判断されました。

 

(3)新入社員に対する言動

上司の「学ぶ気持ちはあるのか、いつまで新人気分」「相手するだけ時間の無駄」「死んでしまえばいい」等の発言は、仕事上のミスに対する叱責の域を超えて人格を否定し、威迫するものと判断しました。

 

(4)適切な業務指導と判断されている事例

病院の事務総合職として採用された労働者が、職場でパワハラ、いじめを受けた等として、損害賠償請求を行った事案です。

単純ミスを繰り返す労働者に対して、時には厳しい指摘・指導や物言いをしたことは生命・健康を預かる職場の管理職や医療現場において当然になすべき業務上の指示の範囲に留まるものであり、違法ではないと判断しました。

 

 

やはり、違憲と判断されたり、違憲と判断されなかったりと、事案それぞれの事件や環境、前提条件などで異なった結果となっています。対象の事案自体をしっかりと把握して、判断することが大切です。パワハラのある職場は誰も望んでいませんので、一人ひとりが日ごろから注意を払うことが何よりも求められているのだと思います。