『会報 201811月号』(発行:東京都社会保険労務士会)より

 

本件は、企業Yが入社したXを解雇したところ、Xがこれを無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた事案です。本判決はXの請求を棄却しました。

今回は、判決のポイントと留意点についてです。

 

2.判決のポイント

(1)労災事故の有無

AXに対して休日出勤を指示したとはいえないものの、事前承認を得ずに勤務することの多いXが宿題提出のために作業すること、すなわち休日出勤をすることは想像に難くなく、許容していたといえます。そうすると、Xは業務遂行のため被告の支配下にある事業場で本件事故に遭ったと認められ、業務起因性があるといえます。

 

(2)労基法191項の適用

Xは形式的に休業していなかったとしても、身体的状態として本来欠勤して療養すべき健康状態にあった以上、労基法19条第1項の解雇規制が直接適用ないし類推適用されるべきであると主張します。しかし、労基法 19条1項はあくまで業務上の傷病の「療養のために休業する期間」の解雇の意思表示を禁止している規定であることは文理上明らかであるので、Xの上記主張は採用されません。

 

(3)解雇の有効性

Yがいくつか具体的なエピソードを指摘して業務遂行上・勤務態度につき重大な指摘を受けているにもかかわらず、Xからは反省の言がなく、Xにおいて上司等の教育指導に真摯に向き合っていないと言わざるを得ません。これはXの勤務態度が著しく不良であるといえるだけでなく継続的な教育・指導をしたにもかかわらず改善しない状態にあると評価することができます。

 

3.留意点

(1)使用者の指示がない休日出勤と業務上災害

本件においてYは、Xの負傷は業務上災害ではないと主張していましたが、本判決は業務上災害であると判示しました。

業務上の災害か否かは、まず労働者が使用者の支配ないし管理下にある中で発生したかがポイントとなります。

本件では、Yは、XYの明示の指示に反して休日に出社し本件事故に遭ったのであり、Yの指揮命令下にないことはもとより、支配ないし管理下にはないと考えられます。それゆえ、業務外との判断をすべきと考えられますが、裁判所は、上記判示事項のほかにYXに対し休日出勤手当を支払っている事実も考慮したものと思われます。

 

(2)労基法19条I項本文の適用の有無

労基法191項本文により、解雇が禁止される期間は、条文上、あくまでも①業務上負傷し、②療養のため、③休業する間です。業務上の傷病により労働者が休業している場合でも療養の必要性が認められなければ、同項により解雇が制限される期間に該当しません。

 

(3)解雇事由の立証

 Xへの対応やフォローをせざるを得ない他の従業員へ生ずる負担等、業務への著しい支障が発生していることは明らかです。使用者として、かかる従業員を適切に管理・対応していくことが他の従業員に対する良好な職場環境を提供することにつながることとなります。

 

 

Yの就業規則に定められている、勤務に対する積極的意欲に欠け、又は他の従業員との協調性を欠くなど、会社の一員として不適格と認められた場合は解雇するとの条文からすると、Xの業務態度には問題があると言わざるを得ません。より多くの成果を上げたいという気持ちがあったのでしょうが、協調性も大切ですね。