『会報 201811月号』(発行:東京都社会保険労務士会)より

 

本件は、企業Yが入社したXを解雇したところ、Xがこれを無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた事案です。本判決はXの請求を棄却しました。

 

1.概要

(1)事実関係

Yは、電子計算機用ソフトウェア及び電子計算機周辺装置の製造などを目的とする会社です。Yの就業規則には、勤務に対する積極的意欲に欠け、又は他の従業員との協調性を欠くなど、会社の一員として不適格と認められた場合は解雇するとの定めがあります。

Yにおいて、顧客先企業との直接に窓口になるのは、TAM (TECHNICAL ACCOUNT MANAGER)です。エンジニアであるPEFPREMIER FIELD ENGINEER)については、各自が専門分野をもっており、顧客企業からTAMに案件が舞い込んできた場合、当該案件について専門知識をもっているPFEがアサインされ、TAMとチームを組んで対応することになります。

Xは、YPFEとして商品の製品サポートなどに従事してきました。Xの上司はAになります。

 

(2)TAMとの関係

株式会社C1の担当TAMであるDからの依頼に基づき、これまで同案件を担当していたBXに対し、「C社様選定のパッチに対する精査の作業」を担当するよう依頼を出しました。Xは、同日のメールにて応諾する旨返信しました。

成果物をDに対して納付しましたが、翌月、納付した回答内容に関して新たな質問が顧客企業よりDに対して寄せられたため、DXに対し再度回答を準備するよう依頼を出しました。Xは受けた質問の一部についての回答をDらに対して送信しましたが、回答した内容に対して追加の質問が寄せられた旨、Dからメールを受けました。Xは、対応依頼を受けた事項に対する回答をD に対して送信しましたが、質問の一部については依然として未回答であったため、DXに対し状況確認を行いました。

Xは、未回答であった質問事項についての回答をDへ送付しました。これに対しDは、追加質問の一部について未だ回答されていないので急ぎ回答願いたい旨を告げるとともに、別メールにおける回答についても、回答内容が不十分であるので回答内容を補充するように要望しました。DXに対してメールを送信し、受けた質問のうちの一つに回答が未了であるので急ぎ回答願いたい旨を告げました。

事態の緊急性を感じたAは、このままXに任せていたのでは期限までの回答が間に合わないと判断し、Bに対しても対応に加わるように指示を出しました。指示を受けて作業に入ったBは、ほとんど徹夜に近い対応を余儀なくされました。

 

(3)Xによるアサイン要求

Xは、複数の案件について自らをアサインするよう同僚らに要求する行為を、かかる行為の中止を指示されたにもかかわらずこれを繰り返しました。

 

(4)勤務改善指導書等による指導

ミーティングの席上等において、Xの直属上長であったAやその上司であったL1は、Xの業務遂行上・勤務態度上の問題についての注意指導を繰り返していました。また、2回にわたって「勤務改善指導書」を交付する等、再三にわたってXに対する注意指導を行いましたが、Yがいくつか具体的なエピソードを指摘して業務遂行上・勤務態度につき重大な指摘を受けているにもかかわらず、Xからは反省の言がありませんでした。

 

(5)本件事故の発生

Yは、Xに対して休日出勤を明示で命令していないところ、休日にXYの事業場内で転倒して左足を骨折する事故に遭いました。なお、YXの当該休日出勤に休日出勤手当を支給しています。Xは本件事故後、所定労働時間以上の勤務を行っていました。

 

(6)解雇の意思表示

Y2回にわたって勤務改善指導書を交付する等、再三Xに対して注意指導を行いましたが、XYが指摘した事項に該当する事態については思い当たることがない等と回答していました。

Xは上司との面談において、Yの承認のない時間外労働や休日出勤をしないよう指示されましたが、これに何ら返答を行いませんでした。そしてYは、本件解雇予告を行いました。

 

 

次回は、判決のポイントと留意点についてまとめます。