『会報 20186月号』(発行:東京都社会保険労務士会)より


 

厚生労働省の調査』」によると、睡眠で休養が十分にとれていない人の割合は約20%であり、また、平成19年以降、1日の平均睡眠時間が6時間未満の者の割合が増加しているとの結果も出されています。従業員の度重なる睡眠不足は、病気のリスクを招くだけではなく、企業の成長や発展を妨げる要因にもなりかねません。

今回、会報に睡眠の役割や睡眠不足が及ぼす影響と睡眠不足の対策を解説した特集が載っていましたので、記事の要旨をまとめてみました。

 

1.睡眠の意義

睡眠は私たちの本能による機能であり、眠らないことは許されません。睡眠時間が「コスト」にあたる時間だとしたら、それは必要なコストであり、経営でいうところの固定費に他なりません。もったいないとは思えても、ここに手を付けて本来の活動が低下してしまっては、意味がありません。 

最近の睡眠研究やその他の研究成果を総合すると、1日の中で、活動している時間と睡眠時間とを上手に配分していく視点が大切なことが示されてきています。

 

2.睡眠不足の影響

日本における睡眠不足の影響は経済損失として換算すると、その金額はGDPの約3%、およそ15兆円にも上るといいます。睡眠不足の影響は、例えば判断力の低下が生じたり、もの忘れが増える、怒りっぽくなる、目先のことに飛びつきやすくなるなど、日常的な不具合として現れます。

 

3.ヒューマンエラーの根源

私たちの脳の働きは、覚醒度によって大きく影響を受けています。睡眠不足の人が充分に睡眠を取れば、脳の働きが高まったように感じます。しかし、人間の脳の覚醒度が高い状態には時間制限があることが知られています。

残業が続くと、脳の状態は仕事中であっても酒気帯びの状態と同程度まで低下してしまいます。睡眠不足が限度を超えると、眠たいという意識以上に脳の働きが低下してしまい、マイクロスリープと呼ばれる状態になります。

 

4.睡眠の役割

睡眠の役割は「とにかく生きる」と「よりよく生きる」の二つの視点で考えられます。

とにかく生きるためには、病気にならないようにすることが大切です。私たちは日中に活動することにより、病気でなくても、細胞などが傷ついていきます。これらをうまく回復させたり排除したりしないと、病気の状態になってしまいます。睡眠の役割とは、まずはこのような状態のメンテナンスを行うことです。特に重要なものには、成長ホルモンと呼ばれる物質が挙げられます。

大人に対しては「とにかく生きる」ために働くホルモンとして知られます。これが損なわれると細胞機能に不具合が生じて、重篤な病気につながる可能性が高まることから、成長ホルモンは、健康維持にも重要な役目を果たしていると考えられています。成長ホルモンは、睡眠時間のはじめの3時間くらいの間に全体の8割程度が分泌されることが知られます。

そして、睡眠時間の後半は「よりよく生きる」ための時間です。この時間帯では、体験したことを経験として脳に刻んでいくために、記憶として定着させるための仕組みが働いています。これは、せっかく学んだことがらを、充分な睡眠が取れないと逃してしまうかも知れないということです。

 

 

次回は、眠りのメカニズムについてまとめます。