『月刊社労士 20185月号』(発行:全国社会保険労務士会連合会)より

 

盛んに言われ続けている働き方改革ですが、これは日本的雇用慣行と呼ばれる雇用システムを見直すものであり、その必要性は日本的雇用慣行の経済合理性が低下していることにあります。日本では現在、少子高齢化やグローバル化、急激な技術革新など、さまざまな環境変化が生じており、こうした環境変化に日本的雇用慣行が適合しきれていないと考えた場合、非効率性が生じている可能性があるとも言えます。

しかし、見かたを変えれば日本的雇用慣行の下での働き方に非効率性が生じているからこそ、現在、働き方を正しく改革することが日本の企業にとってのビジネスチャンスとも捉えることができます。

今回、働き方改革が企業業績にどのように貢献しているのかを解説した記事が会報誌に載っていましたので紹介したいと想います。

 

1.ワークライフバランスと生産性

従業員のワークライフバランスの実現につながるような施策(WLB施策)を企業が導入した場合、企業業績にどのような変化が生じるのか、追跡データの分析の結果、WLB施策の導入が企業の生産性を高めるケースが見られましたが、その多くは、実際の生産性上昇までに数年の期間を要していることも同時にわかりました。

こうしたことは、企業によっては短期的にはコスト増を覚悟する必要もありますが、WLB施策の導入によって、将来的な生産性を高められることを示唆しています。また、企業特性としては従業員300人以上の中堅大企業や製造業、過去の不況期に従業員数を減らさず労働保蔵を行ってきた企業などで、WLB施策の導入がその後の生産性上昇につながりやすいこともわかりました。WLB施策の効果は、人材を大事にするような企業であらわれやすいと考えられます。

 

2.女性活躍と利益率

業種や企業規模、売上規模などの他の要因を統計的に統御した場合でも、女性労働力の活用が進んでいる企業では他の企業よりも利益率が高くなっていることがわかりました。女性活躍推進によって企業パフォーマンスが向上する一つの理由としては、女性労働力の活用が企業の生産性向上をもたらすことが考えられます。例えば、労務作業のように体力を要する業務では男性の生産性が高くなる傾向がある一方で、女性が主な顧客になっている商品の企画・開発業務では、逆に女性の生産性のほうが高くなることもあります。女性活躍推進の効果が中途採用の多い企業やWLB施策が整っている企業で顕著でしたが、そうした企業では女性が潜在的な高い能力・スキルを発揮しやすい環境が整っており、そのことで生産性が向上したと解釈できます。

 

3.健康経営と利益率

企業が経営戦略として従業員の健康の維持・向上に取り組む「健康経営」についても、企業業績にプラスの効果があるといった研究成果が得られています。メンタルヘルス不調による長期休職者比率が上昇した企業は、他の企業よりも顕著に利益率が低下していることがわかりました。

一つの解釈として、メンタルヘルスを理由にした休職者が生じるような職場・企業では、働き方に何らかの問題があり、その問題がメンタルヘルス休職者比率の上昇として顕現化しているため、利益率の顕著な低下がみられた可能性を指摘できます。従業員の健康問題が顕現化しないような働き方を実現できれば、自ずと企業業績もよくなると言えます。

 

 

働き方改革によって、従来からある日本的雇用慣行の下での働き方から、時代や環境に適したものに改革していけば企業業績向上につながることが証明されています。企業業績向上の結果が出ない働き方改革は、改革がまだ十分でないという考えに立って、働き方改革を進めるぐらいの意識を持たなければならないというですね。