『会報 20185月号』(発行:東京都社会保険労務士会)より

 

郵便物の集配業務に従事していた×は、会社から懲戒解雇され、これを無効であるとして、労働契約上の地位確認、賃金等の支払と退職金の支払を求めた事例です。判決は、会社による懲戒解雇は有効であるとして、×の請求はいずれも棄却されました。

今回は、実務上の留意点についてまとめます。

 

3.実務上の留意点

無断欠勤を理由とする懲戒解雇が有効と判断され、かつ、会社による退職金不支給も有効と判断されたものです。

・懲戒解雇事由の有無に関しては、無断欠勤の日数のカウントの問題

・相当性に関しては、Xが傷病のため欠勤をしたことには正当な合理的理由があり、無断欠勤中に兼業をしていた事実はない

等と反論をしましたが、本判決はいずれも排斥し、相当性を認めました。

 

(1)懲戒解雇事由

 ①無断欠勤と懲戒解雇事由

無断欠勤自体は、Xが負担する労働義務の不履行です。しかし、単

なる債務不履行にとどまらず、懲戒処分、特に懲戒解雇の対象となる無断欠勤は、正当な理由を欠き、長期間にわたり反復継続して欠勤し、業務や人員配置に支障を及ぼした場合に限定されます。

 

 ②注意警告の重要性

無断欠勤を理由として懲戒解雇を行う場合に重要なのが、労働者に対して、繰り返し、出勤の督促を行う等の注意を行うことです。

就業規則等で例えば、「無断欠勤14日を超えた場合」を懲戒解雇事由と定めていたとしても、いきなり懲戒解雇を行うことは差し控えるべきです。

 

(2)相当性

 ①欠勤に正当な理由があるか

Xが出勤しなかったのは傷病のため等と主張し、本件懲戒解雇に相当性がない旨主張しています。Xが傷病が原因で結果的に無断欠勤となってしまった可能性がある場合には、その事情を慎重に判断する必要があります。しかし、本判決では、Xは無許可でアルバイトをしていた等の事実を認定しており、Xの傷病をもって無断欠勤に正当な理由があると判断することはできないとしました。会社も、Xに対し無断欠勤の理由、会社に連絡をしなかった理由、無断欠勤中の行動について質問をするとともに、弁明の機会を付与したことにより、適正な手続が経られていると評価され、手続的相当性があったと判断されています。  


 


 

手続的正当性があったと判断されたポイントは、会社がXに対し無断欠勤の理由や連絡をしなかった理由、無断欠勤中の行動について丁寧に質問をするとともに、何回も弁明の機会を与えることにより、立場的に弱者となる労働者側を最大限に尊重したところにあるかと思います。ここまで会社側のケアがあったのあれば、Xのほうももう少し理解を示して、双方により利益の得られる結果になればよかったのですが、このケースは残念です。