『月刊社労士 20184月号』(発行:全国社会保険労務士会連合会)より

 

パワハラ・ノルマ受け、ミスも重なり自殺した事例

 

『月刊社労士』に毎号載せられている「労働保険審査会裁決事例」の内容を要約、情報追加してご紹介します。

 

<事例趣旨>

請求人の亡夫は、スーパーマーケット店長として業務に従事していましたが、自家用車の車内で死亡しているところを発見されました。死因の種類は「自殺」とされました。請求人によると被災者は、上司から嫌がらせを受け、達成困難なノルマや恒常的な長時間労働及び仕事上のミスなどが原因となって精神障害を発病し、自殺に至ったものだとして、労基署長に遺族補償給付及び葬祭料を請求しました。しかし、被災者の精神障害の発病及び死亡は、業務上の事由によるものとは認められないとして、これらを支給しない旨の処分となりました。請求人は、これらの処分を不服として、本件再審査請求に及びました。

本件は、被災者の死亡が業務上の事由によるものであると認められるか否か、がポイントになります。

 

<裁決結果>

被災者の精神障害の発病及び死亡は業務上の事由によるものであると認められました。そして、労基署長が請求人に対してした遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分は失当であり、取消しを免れないとされました。

 

<事実の認定及び判断>

精神障害の業務起因性の判断に関しては、厚労省が「心理的負荷による精神障害の認定基準について」を策定しており、当該認定基準に基づいて検討します。

「特別な出来事」の類型に示されている「心理的負荷が極度のもの」、または「極度の長時間労働」は認められず、「特別な出来事」は見受けられませんでした。よって、「特別な出来事以外」について検討することとします。

「上司とのトラブルがあった」との出来事として、請求人らは、「被災者が事業場に店長として異動すると同時に、当該地域のエリアマネージャーであったNから、執拗かつ理不尽な指導及び人格攻撃や暴力等を受けていた」旨を主張します。この点、Nは、聴取書において、これら事実を否定しているものの、降格や左遷を示唆する発言や頭、肩を叩いたことを認める申述をしています。

Nの指導・叱責は、店長である被災者の職責を加味した業務上の指導であると言えるものの、いささか行き過ぎた面がなかったとは言い難く、その業務による心理的負荷の総合評価は「中」であると判断されます。

請求人らは、被災者が事業場に赴任した直後から「食料品への異物混入」、「拾得物の紛失」等の問題が発生、これらは、「仕事内容・仕事量の変化を生じさせる出来事があった」に該当する旨を主張します。

これらの出来事は、認定基準別表1の具体的な仕事の類型「仕事内容・仕事量の変化を生じさせる出来事があった」に該当するものであり、業務による心理的負荷の総合評価は、「中」であると判断されます。

また、請求人らは事業場において、食料品の賞味期限切れの問題が連続して発生したことから、被災者の心理的負荷は一層強まることになった旨を主張する。

連続して生じた出来事は、具体的出来事の類型「会社で起きた事故、事件について責任を問われた」に該当するもので、事態の深刻さを勘案すると業務による心理的負荷の総合評価は「中」であると判断されます。

従って、被災者に発病した本件疾病は、業務による強度の心理的負荷によるものと認められ、被災者の自死は本件疾病によって正常の認識及び行為選択能力が著しく阻害され、自死行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥っていたものと推認されることから、被災者の精神障害の発病及び死亡は業務上の事由によるものであると認められました。

 


 

事業場に赴任した直後から「食料品への異物混入」、「拾得物の紛失」等の問題が発生して、運が悪かったところはありますが、これもやはり回りが配慮や注意を払って、最悪の結果になる前に救えるような環境やシステムを整えておくことが大切ではないかと感じました。