『会報 20184月号』(発行:東京都社会保険労務士会)より

 

総合労働相談所の相談事例になります。相談者は、正社員として人材派遣会社の営業部に在籍する課長職の50歳代の男性Aさんです。Aさんはある日、出勤すると営業部長に呼び出されました。Aさんの部下である契約社員のBさんが休む旨の連絡があり、原因がAさんからのパワハラで、眠れず気持ちが落ち込んでしまい、出勤しようとしても身体が動かないとのことでした。その日、営業部長はAさん及び部下達一人ひとりと面談し、その後も何度か営業部長及び総務部長と面談し、1カ月後Aさんは詳しい理由を聞かされないまま、営業部から人材開発部へ異動することになりました。

Bさんは1年ほど前に契約社員として入社した30歳代後半の男性です。成績面ではムラがありましたが、ほぼ毎月目標数字は達成していました。しかし、仕事の仕方がやや自己中心的で強引であったり、トラブルになりそうな時も上司のAさんに相談や報告をしないで独断で進めたりしていました。

そこでAさんは、Bさんを会議室に呼び出して、仕事は一人でするものではない、報告・連絡・相談は基本的なビジネスマナーであるなどを話したばかりでした。Bさんも反論はせず、以後気を付けますと、納得した表情だったので、Aさんはあくまでも適切な指導であると思っていました。

 

1.相談内容

Aさんとしては、身に覚えのないパワハラを訴えられ部署移動となりましたが、そもそもどのような行為がパワハラに当たるのか、また、会社に対して今後どのような対応をすればよいのでしょうか。

 

2.アドバイス

パワハラを訴えられて部署異動となったとのことですが、よく話を聞くと、異動の理由は告げられておらず、面談によるヒアリングは行なわれたものの、会社としての見解は聞かされず、懲戒処分の通知もなかったとのことでした。すると、現状は単なる配置転換を命じられただけという状態とも言えます。先ずは、異動の理由がパワハラ対応としてAさんとBさんとの距離を置くための措置だったのか、など改めて会社に確認するようにアドバイスをしました。

一般的には正社員の配置転換は会社に人事権として認められているので、今回のケースがパワハラに対する懲罰的意味合いの異動であるとは断定できません。いづれにしても、人事権があるとはいえ、不当な人事権の行使はできないため、今回の人事異動の理由を説明してもらうことは必要です。

降格人事であるならば、弁明の機会を与えられた上での処分通知があってしかるべきであり、人事権の乱用であるので無効であると訴えることも検討できます。また、職場におけるパワハラの定義については、厚労省のパワハラに関するポータルサイト「明るい職場応援団」などを紹介し、説明しました。

 

3.結論

ポータルサイトで具体的な事例や判例なども読み、改めてAさん自身が行なった行為がパワハラでないのかという目線でも確認してみて、その上で再度会社と話し合いをしてみます、とのことになりました。

 

 

パワハラに当たるか当たらないか、これはいつもこの類の事例では問題になります。パワハラについての記事は何度も紹介して来て、自分自身も分かっているつもりですが、改めて厚労省のポータルサイト「明るい職場応援団」を読み直してみようと思います。