『会報 201711月号』(発行:東京都社会保険労務士会)より

 



期間の定めのある雇用契約を締結している社員と期間の定めのない雇用契約を締結している社員との間で、賞与の算定方法が異なる差別があり、労契法に違反する不法行為に当たるとして、賞与の差額の支払いを求めた事案です。

判決は、賞与の支給方法における差異は不合理な労働条件の差異であるとは認められないとして、支払い請求を棄却しました。

今回も引き続き、解説についてです。

 

3.解説

(2)判決のポイントと留意点

 本件では、マネージ社員とキャリア社員とでは、基本給、業務インセンティブ、各種手当などは同じですが、賞与の支給方法に違いがあります。

 判決は、マネージ社員は、経営役職等に昇進することが予定されているとか、他の社員に対する労務管理上の業務を行なっていることを指摘しています。そしてキャリア社員は、業務命令による職務内容の変更、業務役職者や経営役職者への昇進はないとされているという違いを指摘しています。

 このように判決は、マネージ社員とキャリア社員とで、「期待される役割」、「職務遂行能力の評価や教育訓練等を通じた人材の育成等による等級・役割への格付等を踏まえた転勤」、「職務内容の変更、昇進、人材登用の可能性といった人材活用の仕組みの有無」、「職務の内容及び配置の変更の範囲」に違いがあるとしています。

 また、査定方法の相違について判決は、今後現在のエリアにとどまらず組織の必要性に応じ、役職に任命され、職務内容の変更があり得るマネージ社員の一般社員について成果加算をすることで賞与に、将来に向けての動機付けや奨励の意味合いを持たせることとしていると考えられる、としています。これに対し、与えられた役割において個人の能力を最大限に発揮することを期待されているキャリア社員については絶対査定とし、その査定の裁量の幅を広いものとすることによってその個人の成果に応じてより評価をし易くすることができるようにしたものとして、査定方法の違いが不合理であるとも言えないとしました。

 本件は、マネージ社員とキャリア社員とで職務内容の違いが明確であるように見て取れる事例です。判例によれば、考慮要素を検討する場合、就業規則等の定めだけでなく、相違の中身や実態面を見て判断されている点に注意する必要があります。

 次に、賞与の性格については、労働の対価とともに功労報償的性格も併せ持つと一般的に解されている点につき、期待される役割や責任の範囲、転勤の有無などの考慮要素を判断する場合に勘案されるのを否定することはできません。

 


 

労契法の20条に関して、有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違が、「不合理と認められるものであってはならない」と規定しているのであって、「合理的でなければならない」との文言になっている訳ではないという指摘は、何回かゆっくりと読み返さないとなかなか理解しにくいところですね。