読書シリーズの第二弾です。今回は島崎藤村の「夜明け前」を読んでいましたが、第一部を読み終えたところで中断していました。中だるみしてしまい、第二部へ取り掛かる気持ちが薄れていたのですが、ここで挫折してしまうと第一部を読んだ努力が無駄になってしまいますので、気合を入れ直して最後まで読み終えようと思います。

 この本の出版は昭和48年となっていました。全体的に日焼けして変色してはいますが、その度合いは若干の程度なので読むのに問題はありません。どうやら誰も一度も読んでいないようです。この本は出版されてから今までどのような変遷を辿って来たのか想像もできませんが、誰かに一度は読まれたほうがこの本にとっても幸せではないかとも思うのです。

 古典・名作の類はフリーの電子書籍として公開されていて手軽に読めるような時代になりましたが、それでも、自分が小さな子供の頃に出版された昭和の書籍を、肌触りを楽しみながら頁をめくって読んで行くのもまたよろしいのではないでしょうか。

 

夜明け前 (第2部 上) (新潮文庫)/新潮社
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2-7-1 「総管所」

例の万国公法の意気で、新時代を迎えるに急な新政府がこれまでの旧い暦をも廃し、万国共通の太陽暦に改めたころは、やがて明治六年の四月を迎えました。その時になると、馬籠本陣の吉左衛門なぞが最早この世にいないばかりでなく、同時代の旧友であれほどの頑健を誇っていた金兵衛まで七十四歳で亡き人の数に入りましたが、あの人たちに見せたらおそらく驚くであろうほどの木曽路の変わり方でした。

本陣、脇本陣、今はともにありません。大前、小前なぞの家筋による区別も、もうありません。庄屋、名主、年寄、組頭、すべて廃止となりました。この混沌とした社会の空気の中で、とにもかくにも新しい政治の方向を地方の人民に知らしめ、廃関以来不平も多かるべき木曽福島をも動揺せしめなかったのは、尾州の勘定奉行から木曽谷の民政権判事に転任して来た土屋総蔵の力によります。この人の時代は正味二年足らずの短い月日に過ぎませんでしたが、その短い月日の間が木曽地方の人民にとっては最も幸福な時代でした。

 

2-7-2 「お民の相談」

お民はある相談をもって妻籠のおばあさんや兄寿平次を見に来ました。その相談は、娘お粂の縁談に関する件で、かねて伊那の南殿村、稲葉という家は半蔵が継母おまんの生家に当るところから、おまんの世話で、その方にお粂の縁談が整い、すでに結婚の日取りを申し合わせるまでに運んだのでした。

お民も最早五人の子の母です。今さら里ごころでもあるまいに、しかしその年になっても妻籠に帰って来て見ると、やはりおばあさんの側は彼女にとって自分の家らしかったのでした。やがて天井の高い、広い囲炉裏ばたでは、おばあさんはじめお里やお民が黒光りのする大黒柱の近くに集まって、一しきり子供の話で持ちきりでした。お里と寿平次の間には長いこと子供がなく、そのために正己を馬籠から迎えて養っていたほどでしたが、結婚後何年ぶりかでめずらしい女の児が生まれました。母であることはお民を変えたばかりでなく、お里をも変えました。あれほど病気がちで子供のないのを淋しそうにしていたお里が、母親らしい肉づきをさえ見せて来ました。

「半蔵さんもどうしているかい」

と寿平次が聞きます。

「わたしが何をきいても、山林事件のためだとばかりで、くわしいことも話しません」

「お民、あれほど半蔵さんが山林事件に身を入れて、いくらこの地方のために奔走しても、今の筑摩県の権判事が替りでもしないうちはまず駄目だと俺は見てる・・・」 

 

2-7-3 「許嫁の破談」

馬籠本陣を見た眼で妻籠本陣を見るものは、同じような破壊の動いた跡をここにも見いだします。お民は寿平次と一緒に玄関の方へ行って見ました。彼女が娘時代の記憶のある式台のあたりは最早陣屋風の面影をとどめていませんでした。

その晩、お民は和助を早く寝かしつけておいて、寿平次のいる寛ぎの間におばあさんやお里とも集まりました。お粂の縁談について、折り入ってその相談に来たことを兄夫婦らの前に持ち出しました。

「俺に言わせると、」

と寿平次が言い出しました。

「この話は、すこし時がかかり過ぎたわい。もっとずんずん運んでしまうとよかった」

馬籠峠の上ともちがい、木曽も西のはずれから妻籠まで入ると、大きな谷底を流れる木曽川の音が日によって近く聞こえます。お民は久しぶりでその音を耳にしながら、その晩は子供と一緒におばあさんの側に寝ました。

 

 

本陣、脇本陣はなく、大前、小前なぞの家筋による区別もなくなりました。庄屋、名主、年寄、組頭、すべて廃止となり、木曽路は驚くほど変わってしまいました。この変化が半蔵の娘お粂をも襲って来ます。もともとお粂には幼い時から親の取り決めていた許嫁があったのですが、本陣をはじめ、様々な諸役がしきりに廃止される時勢に、先方の親から破談を申し込んで来たのでした。この破談もまた、往く往く半蔵の心を蝕むことになります。

 

 

 

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