『会報 2017年7月号』(発行:東京都社会保険労務士会)より
今回は、歩合給の計算に当たり時間外・深夜労働に対する割増賃金に相当する額を控除する旨定めている賃金規定について、その有効性が問題になった事例です。1審および2審は労基法の趣旨を潜脱するもので公序良俗に反し無効であるとしました。しかし、最高裁判決は公序良俗に反するものではなく、労基法の定める割増賃金の支払といえるか否か問題になり得るとして、高裁に差し戻す判決を行ないました。
この判決の中では、労基法の趣旨、割増賃金の算定・支払方法について明示的に判示している点が重要となります。
次回は、割増賃金を控除する歩合給規定の有効性についてです。
4.割増賃金を控除する歩合給規定の有効性
原審は、割増賃金および歩合給を計算するための対象額「対象額A」から、割増賃金および交通費に相当する額を控除するものとしているという点を問題にしました。原審判決は、歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に見合う部分を控除する部分は、強行法規であり違反者には刑事罰が課せられる労基法37条の規制を潜脱するものであるから、同条の趣旨に反し、ひいては公序良俗に反するものとして民法90条により無効である、としました。
これに対して最高裁判決は労基法37条は通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定をしていないことに鑑みると、割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払と言えるかどうかは問題となり得るものの、当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し、無効であると解することはできない、としています。
つまり、労働契約において売上高等の一定割合に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨の定めについて、これが当然に労基法37条の趣旨に反するものとして公序に反し、無効となるものではないとなります。
しかし、このような定めが何も問題ないかというとそうではなく、同条の定める割増賃金の支払といえるかどうかという点で問題となり得るとしています。本件の問題は、規定によれば労基法37条の定めによる割増賃金の支払がなされていると言えるかどうかである、ということです。
すなわち、法定の計算方法に基づいて割増賃金を支払うことまでは要求されませんが、
・法定の計算方法によって算定された額を下回らない額の割増賃金を支払う義務がある
・通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否か
が検討されなければなりません。また、そのような判別をすることができる場合に、
・割増賃金として支払われた金額が、法定の計算方法により算定した割増賃金の額を下回っていないか否か
が検討されなければなりません。
賃金規則は、金額の計算式が正確であることは当然ですが、前提として通常の賃金に当たるのか割増賃金に当たるのかが判別できるように定義されていないといけない訳ですね。もらうものはどちらも金銭で変わりないのですが、その諸元に重要な意味があるとすると、来月から給与明細をじっくり見るようにしょうと思います。