読書シリーズの第二弾を再開します。今回は島崎藤村の「夜明け前」を読んでいましたが、第一部を読み終えたところで中断していました。中だるみしてしまい、第二部へ取り掛かる気持ちが薄れていたのですが、ここで挫折してしまうと第一部を読んだ努力が無駄になってしまいますので、気合を入れ直して最後まで読み終えようと思います。

 この本の出版は昭和48年となっていました。全体的に日焼けして変色してはいますが、その度合いは若干の程度なので読むのに問題はありません。どうやら誰も一度も読んでいないようです。この本は出版されてから今までどのような変遷を辿って来たのか想像もできませんが、誰かに一度は読まれたほうがこの本にとっても幸せではないかとも思うのです。

 古典・名作の類はフリーの電子書籍として公開されていて手軽に読めるような時代になりましたが、それでも、自分が小さな子供の頃に出版された昭和の書籍を、肌触りを楽しみながら頁をめくって読んで行くのもまたよろしいのではないでしょうか。


 

夜明け前 (第2部 上) (新潮文庫)/島崎 藤村
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2-1-3 「亜米利加使節ペリイ」

 

 百六十年ほど後に黒船の載せて来た亜米利加使節ペリイが和蘭人のような仮面を脱いで、全く対等の位置に立ち、一国を代表する使節としての重い使命を果たしに来ました。

 この国のものが海外の事情に暗かったように、異国のものもまた極東の事情に暗いものばかりだと思ったら、それこそ早計であり、ペリイの取った航路は遠くアナポリスから極東への船旅に上る前に、彼にはすでに長い支度があったといいます。ただ、彼が知ろうとして知りえなかったのは、日本最近の政治上に位置と、天皇と大君(将軍のこと)との真の関係であったそうでした。

 それからの黒船が載せて来た人たちは、いずれもこの国の主権の所在を判断するのに苦しみました。日本皇帝への贈り物は、江戸の役人は幕府へ献上したものだとして、京都までは取り次ごうとしませんでした。このことは、しかし在留する外人の次第に感知するところとなって行きました。幕府の役人が外人を詐って、将軍は大君で皇帝権を有するものだと信ぜしめたとする英国公使パアクスのような人も出て来ました。

 様々な行きがかりから言っても、江戸幕府に同情してひそかにそれを助けようとしている仏蘭西公使ロセスと、革命の起って来たことを知って西国の雄藩を励まそうとしている英吉利公使パアクスとが、皇帝と大君との真の関係について互いに激論をかわしたということは不思議ではありません。

 

 

2-1-4 「米国領事ハリス」

 最初の米国領事ハリスの口上書がここで引合いに出されます。極東に市場を開かせに来た亜米利加の代表者をして彼らみずからを語らせたいとの意向で、これは安政四年、江戸の将軍謁見を許された後のハリスが堀田備中守の役宅で述べた口上の趣です。

 異国はまだ多くのものにとっては未知数でした。長い鎖国の結果、世界のことはおろか、東洋最近の事情にすら疎かったこの国のものは、最初の米国領事から種々の先入主となることを教えられました。

 この先着の亜米利加人が教えたことは、好い意味にも悪い意味にもこの国民の上に働きかけました。ハリスは米国提督のペリイとも違い、力に訴えてもこの国を開かせようとした人ではありませんでした。相応に日本を知り、日本の国情というものをも認め、異国人ながらに信頼すべき人物と思われたのもハリスでした。

 国を開くか開かないかの早いころに来てこのハリスの教えておいたことは、先入主となって日本人の胸の底に潜むようになったのでした。あたかも、心の柔らかく感じやすい年ごろに受け入れた感化の人の一生に深い影響を及ぼすようでした。

 

 

 鎖国の日本を開国したとして最初に思い浮かべるのはペリイと四隻の黒船ですが、その後に来日した最初の米国領事ハリスもまた、ペリイとは異なる考え方と姿勢で日本を開国し、国家間の信頼関係を築こうとした人物なんですね。

 

 

 

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