『会報 20176月号』(発行:東京都社会保険労務士会)より

 

総合労働相談所の相談事例になります。相談者は、不動産業会社で営業職として10年前から勤めている35歳代の男性Aさんです。家族構成は、パート勤めの妻と幼稚園に通う子供の3人家族で、別居している親の介護中でもあります。賃金は基本給15万円+歩合給制で、月給は合計30万程度です。

Aさんは上司から、事務職に異動するように通告されました。理由は営業能力不足でした。確かに親の介護のために休みがちになり、営業成績が上がらない事実はありましたが、異動の理由に納得がいきません。また、異動後の賃金は合計20万円の固定となりました。月々20万円ではパート勤めの妻の収入を足しても家族3人暮らして行くことは難しい状態です。

Aさんとしては、今回の異動は明らかに退職を言われているように思える、というのが相談事例です。

 

1.相談内容

Aさんは、今回の異動命令を拒否できるか、というのが1つめの相談です。2つめは、営業職は営業手当(歩合給)が残業代であるという説明で、一切支払われたことがないということです。

 

2.アドバイス

異動命令を拒否できるかどうかについては、人事異動には合理的な理由が必要です。また、事務職への異動に伴い賃金が平均30%以上減額されるというのは、営業能力不足という理由では、「労働条件の極端な不利益変更」と言わざるを得ません。介護のために一時的に営業成績が下がったという理由だけでは不合理というべきです。

次に、現行の賃金制度について違法な点があるように見受けられる点です。残業第は労働時間に対して支給されるべきものであり、営業手当の中に何時間分に相当する残業代がいくら支払われているのか、算定根拠の明確化が問われます。物件が売れない場合にはどんなに働いても基本給しか支給されないということは、労働基準法違反であると言えます。

付きの固定賃金が基本給15万円だけというのも問題があります。歩合制の営業手当が支給されない月は、所定労働時間数によっては最低賃金を下回る可能性があります。営業手当が支給される月でも、残業手当相当の賃金は最低賃金の計算からは除かれるので、やはり不足する可能性があります。

 

3.対応

労働条件の不利益変更について、原則として労働者の合意が必要です。その変更理由や不利益の程度により、合理性が問われることになります。

企業としては、先ず合理性を検討し、その上で従業員等に対し十分な説明・協議を行ない、合意を得ることが重要となります。

 

 

Aさんはアドバイスを受けて、就業規則や労働契約書等を再度確認し、会社と話し合うとのことになりました。親の介護が営業成績に影響を与えていることにしても何か解決策が見つけられればよいですね。