『会報 201612月号』(発行:東京都社会保険労務士会)より

 

先週、兼業・副業に関する検討として、兼業・副業の問題を労働法の観点から検討した会報の記事を紹介しました。政府は「働き方改革実現会議」を開催し、働き方の改革を強く推し進めようとしています。

同一労働同一賃金や長時間労働の是正などはニュースに取り上げられる機会が多いですが、兼業・副業もまた柔軟な働き方として重要となって来ます。今回は、再び会報の記事から、兼業を導入することの課題とともに導入する際のポイントについてまとめてみました。

 

1.兼業・副業の禁止が許される範囲

兼業・副業は多くの企業において就業規則等に規定を設け禁止されて来ました。しかし、裁判においては、就業規則の規定を限定解釈して来ました。兼業・副業の禁止や許可は就業規則等に規定があったとしても、“やむを得ない事由”がある場合を除いて無効としています。

 ・兼業が不正な競合に当たる場合

 ・営業秘密の不正な使用・開示を伴なう場合

 ・労働者の働き過ぎによって人の生命または健康を害する恐れがある場合

 ・兼業の態様が使用者の社会的信用を傷つける場合 等

 

2.導入する際の課題と留意点

(1)労働時間の通算

兼業・副業の場合の労働時間に関しては、事業主が異なる場合においても通算する必要があります。しかし、労働時間を通算するにしてもどのように労働時間を把握するかが問題となります。兼業先の会社からの報告は、関連会社である場合を除いて困難ですので、当該従業員から定期的に報告を受ける必要があります。

(2)時間外割増賃金の支払い

この場合、本業先、兼業先どちらの会社が支払い義務を負うかが問題となります。兼業・副業を導入する際には管轄労働基準監督署に確認の上、兼業・副業を許可する従業員の労働パターンを個別に把握した上で割増賃金の支払い義務の有無を確認する必要があります。

(3)労災

保険給付に係わる給付基礎日額は、本業先また兼業先どちらか一方の賃金を基に算定されます。

 ①業務災害と給付基礎日額

本業先、兼業先、両社の賃金を合算して算定されることはありません。本業先の会社で発生した場合は本業の会社の賃金を基に、兼業先の会社で発生した場合は兼業先の会社の賃金を基に給付基礎日額が算定されます。

 ②通勤災害と給付基礎日額

本業先の会社から兼業先の会社に向かう場合は、本業先の会社の賃金が、兼業先の会社から本業の会社に向かう場合は、本業先の会社の賃金が、給付基礎日額算定の基礎となります。

 ③兼業における労災の課題

労災は不可抗力によって発生することも多々あり、その際どちらの会社で発生したか、どちらの会社が起点であったか、どちらの会社に向かっていたかによって、給付基礎日額に著しい差が発生してしまう可能性があります。

二重就職者についての給付基礎日額は、業務災害の場合と通勤災害の場合とを問わず、複数の事業場から支払われていた賃金を合算した額を基礎として定めることが適当であるとの報告がなされています。しかし、現在に至るまで具体化していません。

 

 

次回も引き続き、導入する際の課題と留意点についてまとめます。