『会報 2016年12月号』(発行:東京都社会保険労務士会)より
企業組織には様々な雇用状況の社員がいます。また、個人や家庭環境なども加えれば、更に多様な社員が混在することになります。このような多様性を尊重し、活かす人事戦略がダイバーシティマネジメントです。仕事と育児・介護の両立支援のための労務管理としてダイバーシティマネジメントを理解する記事が会誌で連載されていますので、要旨をまとめてみました。
今回は、出産・育児・介護の法改正のポイントについてです。
1.マタニティハラスメント
いわゆるマタハラは、「妊娠・出産を理由にした解雇・雇止めをされることや、妊娠・出産に当たって職場で受ける精神的・肉体的ハラスメント」と定義されています。厚労省では正式に定義してはいませんが、法改正の内容から、妊娠・出産に留まらず、対象は育児・介護も含み、一般に認識されているよりも広範囲かつ男性も含んでいるという点は留意する必要があります。
2015年の調査では、3割近い女性がマタハラを経験しているとのことから、妊娠・出産しても働き易い職場づくりは解決すべき重要な課題です。
2.ハラスメント対策の強化
ハラスメントに対しては、これまでも制度の利用をしたり、申し出た場合に不利益な取り扱いをしたりすることを事業主に禁止していました。法改正では、更に踏み込んで職場で上司や同僚がハラスメントをしないように事業主として必要な措置を講じることが義務とされました。
また、指針では事業主の義務と望ましい措置として13の項目を例示しています。中でもハラスメントが起きる背景となる要因を解消するための措置については、多くの事業主が直面している事項のはずです。
①業務体制の整備など、事業主や制度等の利用を行なう労働者その他の労働者の実情に応じ、必要な措置を講ずること
・妊娠した労働者の周囲の労働者への業務の偏りを軽減するよう、適切に業務分担の見直しを行なう。
・業務の点検を行ない、業務の効率化等を行なう。
②制度等の利用の対象となる労働者に対し、労働者の側においても、制度等の利用ができるという知識を持つことや、周囲と円滑なコミュニケーションを図りながら自身の制度の利用状況等に応じて適切に業務を遂行していくという意識を持つこと等を周知・啓発することが望ましいこと
・社内報、パンフレット、社内HP啓発のための資料等に記載し、妊娠等した労働者に配布する。
・妊娠等した労働者に対し人事部門等から周知・啓発する。
3.仕事と介護の両立
両立している人は、長期にわたって休むというよりはむしろ細切れに休んだり、始業終業時間の繰上下げや、残業をしないことで対応しているということが明らかになっています。次の項目は両立して行くために積極的に周知すべき項目になります。
①介護休暇の半日単位での利用が可能
②介護短時間勤務等の利用期間を介護休業とは切り離し、3年を上限に2回以上利用可能
③介護のための所定外労働の制限(残業の免除)の新設
4.改正内容の活用
法改正を上手に活用してもらうためには、誰もが柔軟に働くことが可能になる働き方改革と紐づいているということを伝えることが大切です。優秀な人材の獲得と定着のために労務管理上、働き方改革が有効な施策であることを関係者全体で共通した理解を持つことがポイントとなります。
改正男女雇用機会均等法と改正育児・介護休業法の施行は平成29年1月からと、もう直前に迫って来ました。今からでもこれらの法改正のポイントをしっかり押さえて、せっかくの法改正を有効活用できるように心がけないといけないですね。