先週、企業における長時間労働やストレスの増大などの懸念される状況が見られる中で、注目されて来ている企業の社会的責任(CSR)に関する記事を、会誌から取り上げて紹介しました。社会的責任(CSR)については以前から聞いたことのあるキーワードですが、“労働”という文字がついた場合のCSRとはどういうものなのか、記事の要旨をまとめつつも今イチ、理解ができていませんでした。
それで、今回は厚労省のホームページから労働CSRに関する記事を探して来ました。厚労省は、企業が労働に関するCSRを推進するための環境整備などについて以前から調査・検討を行なっており、これは2008年に報告された「労働に関するCSR推進研究会報告書」です。今回はこの報告書の要旨をまとめながら労働CSRについて理解しようと思います。厚労省のホームページでは、以下のURLに公開されています。
今回は、労働CSRの意義と企業の取組状況についてです。
2.労働CSRの意義
(1)意義・効果
労働CSRの意義等は、労働CSRがどのような効果を持つかという観点から改めて検討が行われました。近年、我が国においても企業の社会的責任についての取組が大きな潮流になっています。従業員について、その働き方に十分な配慮を払い、個性や能力を活かせるようにしていくことは、企業にとって本来的な責務であると言えます。
労働問題については、これまでも労使の対話を通じて解決が図られており、今後とも労使協議を通じた枠組みが問題解決の基本となることに変わりはないですが、個別企業の問題が社会全体の課題と深く関わっている場合などにはCSRの取組が有効であると考えられます。
近年、社会問題となっている少子化、長時間労働、過労死などの問題の背景には、国際的な企業間競争、便利さを求める消費者ニーズなどがあり、消費者や取引先、地方公共団体など様々な関係者との対話や協調を通じて解決を図ることが効果的な場合があります。CSRに積極的に取り組むことは、社会問題の解決だけでなく、企業経営という視点でも有益である。具体的には、
①企業ブランド構築による優秀な人材の確保やシェアの維持・拡大につながること
②不正行為など社会的非難を受ける事態の防止に資することから、リスク管理に有効であること
③SRI等を通じて資金調達の強化となること
等のメリットが考えられます。
CSRの中でも、労働分野におけるCSRへの取組は、従業員の企業に対する満足度、信頼度を高めることにより、労働モラルを引き上げ、優秀な従業員の定着や就業意欲の向上に資するものです。また、従業員の創意工夫・能力発揮を促し、新製品・新サービスの開発、技術革新などによる労働生産性の向上につながるといった効果が期待できます。
(2) 取組に当たっての考え方
労働分野において企業が取り組むべき課題は、労使関係、労働時間管理、労働安全衛生、均衡待遇、両立支援、能力開発、高齢者・障害者雇用、人権・差別問題など多岐にわたっています。労働CSRに関する取組としては、強制力のある法的義務については企業内での法令遵守が前提となりますが、これを確実なものとするため、コンプライアンスに関わる組織体制や社内規範の制定・遵守など社内態勢の整備を行うことが考えられます。努力義務とされる部分についても、法令を上回る部分について具体的にどう取り組むかは、各企業がそれぞれの実態に即して自主的・主体的に定めるべきものと考えられます。
3.企業の取組状況
企業の労働CSRへの取組実態に関するアンケート調査を行い、労働CSRに関する企業
の意識、現状、課題について分析が行われました。この結果の概要は次のとおりです。
(取組方針について)
「CSRの重要性を認識している」とする回答は、回答企業の約7 割を占めており、企業においてもCSRの重要性の意識が高まっている。
一方で、労働CSRをコンプライアンスの一部として狭くとらえる考え方が根強く、労働CSRを従業員というステークホルダーへの責任ある行動をとることとする意識はまだ十分に浸透していない。
(取組内容について)
法令遵守(コンプライアンス)のための社内規定の整備など法令遵守への取組は多くの企業で進められており、重要視して取り組んでいる企業が多い。
両立支援への取組については、各種休業制度や柔軟な勤務時間の制度といった「時間の柔軟化」に取り組んでいる企業が多い。
働きやすい環境作りについては、公平・公正な人事制度や安全衛生の社内規定等に取り組んでいる企業が多い。
社外・海外での取組については、全体的に取組が進んでおらず、社内・国内を対象とした取組に留まっている。
(取組の成果について)
労働CSRへの取組みによる成果としては、従業員の業務へのモチベーションの向上、企業が優秀な人材の確保・定着が多く挙げられている一方で約3割の企業が「特にない」としており、なかなか成果の実感に至らないケースも少なくない。
企業として、重視度が高く、かつ取組が不十分な項目としては、「研修・教育体制の充実」や「従業員の出産・育児・介護の支援」などが挙げられ、これらが、労働CSRへの取組を推進する上での今後の優先的項目との意識が企業にあるといえる。
次回は、自主点検チェック項目についてまとめます。