『会報 201611月号』(発行:東京都社会保険労務士会)より

 

今回の労働判例は、役職定年制の導入に伴って賃金を毎年減額するという就業規則の変更について、その合理性が認められず無効となるかどうか、変更に労働者の同意があったかどうか、などが問題となった事案です。

就業規則の変更については合理性が認められず無効とされましたが、個別に労働者が同意したと認められる時、変更は有効であり、その労働者に適用されるとされました。特に注目すべき点は、労働者の同意の有無について、どのような基準によって判断されるのかにあります。

今回は、当該判例の解説です。

 

3.解説

(1)就業規則の変更の効力

判決は、労働者の被る不利益の程度が相当大きいものであるとして、このような場合には、「相当高度な経営上の必要性」や「不利益を相当程度緩和させるに足りる代償措置が採られていること」が必要としています。本件では、変更の必要性、代償措置ともに不十分であるとされました。経営上の必要性や代償措置は、不利益の内容や程度がどの位のものかとの関係で相当性が判断されることに注意が必要です。

(2)労働者の同意の有無

変更に合理性が認められない就業規則であっても、労働者の個別の同意がある場合には、その労働者との間では就業規則の変更によって労働条件が有効に変更されるとしました。

労働契約法は

9条:労働者の同意なくして就業規則によって不利益な変更はできない

10条:同意がなくても就業規則の周知と合理性の条件を充足すれば変更できる

としています。これらの反対解釈をすれば、労働者の同意には合理性基準のチェックなしに変更できると解されます。

開催された説明会では、不利益な点の内容は明らかであって、その程度について十分理解できるものであったとされました。意見書の提出に業務命令その他強制があったかどうかは、報復人事と言えるような不利益性、不合理性があったわけではないとされ、不合理な人事を受ける具体的な恐れがあったとは認められないとされました。

役職定年制の導入後、減額になった給与等を受け取っていたという事実から、黙示の同意があったと見ることができるどうかは、不利益に変更された給与等を特に異議を示すことなく受け取っていたとしても、そのことから変更に同意したと見ることはできないとされました。

(3)損害賠償請求

信用金庫側の不法行為を理由として、差額分に相当する額の損害賠償請求を認めました。就業規則の変更に合理性が認められず、無効となるだろうことを信用金庫側が認識できたはずであるということです。

 

 

今回の判例に出て来る役職定年制は、おそらく多くの企業で一般的に導入されている就業規則ではないかと思います。労働者各人としては、同意があれば労働契約法の趣旨から、就業規則の変更が合理性を欠く場合であっても有効に変更されるといった点に十分注意すべきではないでしょうか。