『月刊社労士 201610月号』(発行:全国社会保険労務士会連合会)より

 

職場で給食めぐり批判受け、精神障害を発症した事例

 

『月刊社労士』に毎号載せられている「労働保険審査会裁決事例」の内容を要約、情報追加してご紹介します。

 

<事例趣旨>

請求人は保育園で園児の給食及びおやつの調理業務である給食係に従事していましたが、保育士らから苦情や批判などを受けました。このことで請求人は精神症状を発症し、その後も保育士らから苦情が続いたため、病院で受診したところ適応障害と診断されました。

請求人は業務上の事由により精神障害を発病したとして、療養補償給付を請求しましたが、労基署長は、業務に起因することが明らかな疾病とは認められないとして支給しない旨の処分をしました。

本件は、請求人の負傷が業務上の事由によるものであると認められるか否か、がポイントになります。

<裁決結果>

請求人の業務による心理的負荷の総合評価は「強」と判断でき、業務上の事由によるものであると認められました。従って、療養補償給付を支給しない旨の処分は失当であり、取り消されました。

<事実の認定及び判断>

労働局地方労災医員協議会精神障害等専門部会は、請求人が混合性不安抑うつ障害を発症したと判断するのが妥当とし、それを受けて審査会は、請求人が混合性不安抑うつ障害を発症したものと判断しました。

請求人は会議で、給食による食育の話合いを期待していましたが、保育士全員から一斉に給食及びおやつに係わる苦情や批判を受けました。

保育園には、従来から職員が園児の給食を食べる慣行があり、請求人が新入りであるにも拘わらず、職員が給食を食べることに異議を述べる姿勢を示したことへの対抗手段として、保育士らが請求人と対立する姿勢をとった背景があったものと解されます。

請求人と保育士らの間に対立が生じ、請求人の業務に様々な影響が生じた出来事は、認定基準の具体的出来事に当てはめると、「同僚とのトラブルがあった」に該当し、その平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」になります。

また、本来は保育園の園長や運営主体である社会福祉法人の理事会が明確な理由を示し、職員が園児の給食を食べるべきでないことを周知徹底しなければならないところ、これを欠いたために対立が深まった面は否定できない。

管理者は是正を周知徹底すべきところ、職責を放棄し、請求人を孤立無援の状況に追い込んだと見るのが相当あり、理事長や理事会が抜本的な問題解決を図った形跡は認められません。請求人は、職場の支援が著しく欠如していたことで孤立無援の状況に追い込まれたと認められ、請求人の業務による心理的負荷は増幅したものと見るべきで、請求人の業務による心理的負荷の総合評価は「強」であると判断されます。

以上を総合すると、請求人の発症は業務上の事由によるものと認められます。従って、労基署長が請求人に対してした療養補償給付を支給しない旨の処分は失当あり、取り消されました。

 

 

従来から職員が園児の給食を食べる慣行があって、請求人が新入りだからとして、対抗手段として、保育士らが対立する姿勢をとったということですが、大人が子供のお菓子を横取りして食べているようで、話がちょっとみみっちい感じですね。