先週、厚労省が公開している「多様な正社員」の円滑な導入・運用のための事例集を取り上げ、多様な正社員を活用した場合のメリットや雇用管理上の留意事項、活用のためのポイントについてまとめました。この事例集では、さらに多様な正社員の採用から退職に至る雇用管理をめぐる様々な課題への対応を検討し、労使等関係者が参照することができるようにするため、多様な正社員を導入している企業の事例を公表しています。これから5回にわたってその事例の要旨を紹介したいと思います。
原本を参照されたい方は、厚労省の以下のURLに公開されています。
5回目は、製造業の浄化槽を中心とした各種排水処理装置の設計・施工・維持管理等の事業についてです。
勤務地や仕事を限定した働き方を制度化することにより、転勤が難しい社員の継続勤務が実現することにより、勤務地限定 職務限定 時間限定 顧客満足度の維持にも寄与した事例です。
1.正社員
・総合職(全国転勤型)
従事する仕事により、①営業職、②技術職、③工務職の3つの職種に分かれます。新卒採用においては、大卒者は営業職あるいは技術職、高卒者は工務職となります。
・総合職(地域限定型)
勤務地限定(転居を伴う事業所異動はない)です。総合職(全国転勤型)の営業職・技術職と同じ仕事を担当します。
・一般事務職
職務限定・勤務地限定になります。総合職(全国転勤型)の営業職・技術職と同じ仕事を担当します。新卒採用・中途採用ともに行っておらず、総合職(全国転勤型)あるいは一般事務職からの転換者のみです。
・工務職
職務限定・勤務地限定(転居を伴う工場異動はない)です。「総合職(全国転勤型)の工務職」と同じ業務を担当します。
2.非正規雇用の労働者
・嘱託社員
一般事務(本社ではなく、地方の事業所に在籍)を担当します。フルタイム勤務で、契約期間は1年以内、上限勤続年数なしとなります。
3.多様な正社員の区分
(1)多様な正社員区分の導入
前身会社での運用を制度化し、「総合職(地域限定型)」「一般事務職」区分を導入しました。
(2)雇用管理
①労働条件
いずれの区分においても、フルタイム勤務、月給制、賞与あり・退職金ありですが、次の就業規則に示す内容で、それぞれの区分の差異があります。
②就業規則
いずれの区分においても、総合職(全国転勤型)と同一の就業規則が適用されます。その就業規則の中で、
・総合職(地域限定型)は「転居を伴う事業所異動はない」
・一般事務職は「一般事務のみに従事し、転居を伴う事業所異動はない」
・工務職は「工場における作業のみに従事し、転居を伴う工場異動はない」
旨を規定しています。
③給与
区分Aは、総合職(全国転勤型)と同一の給与テーブルが適用されますが、同じ職位の給与額は、総合職(全国転勤型)の9割程度の水準となります。
区分Bは、総合職とは仕事が異なるため、一般事務職独自の給与テーブルが適用されます。
区分Cも、総合職とは仕事が異なるため、工務職独自の給与テーブルが適用されます。
4.雇用区分の転換
(1)正社員区分からの転換
家庭の事情等で全国転勤が難しくなった場合には、本人の申出および上長の承諾により、総合職(全国転勤型)から総合職(地域限定型)への転換を認めています。
(2)多様な正社員区分からの転換
一般事務職から総合職(地域限定型)への転換を認めています。担当している仕事範囲が一般事務職としての仕事範囲を超えた場合に、本人の同意に基づき上長と人事部が協議し、役員が転換可否の判断を行います。
(3)非正規雇用の労働者区分からの転換
①正社員登用
嘱託社員から一般事務職への登用について、総合職(全国転勤型)と同一の就業規則に規定しています。上長が登用候補者を推薦し、本人の同意が得られれば上長が推薦書を用意します。その推薦書に基づき役員が試験・面接に進めるかどうかの判断を行い、適性検査・一般常識検査・上長および人事部との面接に合格した場合に登用が可能となります。
②無期転換への対応
嘱託社員の通算契約期間が5年を超える場合、本人からの申出があれば無期労働契約に転換する方針です。無期転換後の賃金水準等は、嘱託社員時と同水準にするよう検討中です。
紹介している事例は、多様な正社員活用と一言で言っても、内容は様々です。会社ごとに抱えている課題が異なり、またこれから目指す会社の在り方もそれぞれだから、多様な正社員の活用方法も、正に多様な内容になっています。
そのため、先駆けて実施している企業は、苦労や試行錯誤を重ねた末の成功した事例だと思います。
ただ、共通に言えること、つまり基本として大切なことは多様な正社員と呼ぶことは、つまりはほぼ全ての社員をさす訳で、そのような広範囲にわたる従業員の労務を定めるのですから、従業員との会話や検討を何度も繰り返し、社員自身が改善し、構築して行く「多様な正社員活用制度」であることだと感じました。