『月刊社労士 20166月号』(発行:全国社会保険労務士会連合会)より

 

窓清掃作業中の負傷で労働者性が疑われた事例

 

『月刊社労士』に毎号載せられている「労働保険審査会裁決事例」の内容を要約、情報追加してご紹介します。

 

<事例趣旨>

請求人は窓清掃作業中に転落負傷しました。これは業務上の事由によるものであるとして療養補償給付及び休業補償給付を請求しましたが、労基署長は、会社との使用従属性、諾否の自由、報酬、道具類の準備などの面から、請求人は労災保険法上の“労働者”とは認められないとして支給しない旨の処分をしました。

本件は、請求人の負傷が業務上の事由によるものであって、労働者資格を有していたものであるか否か、がポイントになります。

<裁決結果>

請求人と会社との間には使用従属関係は認められず、請求人は会社との関係で、「手間賃による日給月給制の労働者」に当たるとする主張は採用できないとして、療養補償給付及び休業補償給付を支給しない旨の処分は妥当であるとされました。

<事実の認定及び判断>

請求人は窓清掃のある度に会社に雇われており、会社への専属性は高かったと主張しました。しかしながら、特定の企業の仕事のみを長期にわたって継続している場合に労働者性を強める要素になるので、請求人のような他の会社とも複数取引がある場合は、その会社への専属性が高かったとは言えません。

仕事の依頼、業務に従事すべき旨の指示等に対する諾否の有無については、仕事は土、日、休日に集中しており、請求人は諾否の自由がなかったと主張しました。しかし、これは窓清掃という業務の性格からの理由であり、また、仕事は前月末に翌月分が依頼されていました。よって、諾否の自由がなかったとは言えません。

報酬については、請求人が受け取った報酬は1日及び半日単位で労働者としての日当であるとしました。しかし、請求人の報酬は労働時間数に応じて定められていたものではなく、労働者としての日当であるということはできません。

次に道具類については、請求人は安価なもので最低限の工具を保持しているのみであると主張しましたが、窓清掃の道具類は全て自分で購入しており、また不必要な床清掃道具も保持して自分の車に積み込んで現場に赴いていました。作業衣についても、会社の作業衣を着用して窓清掃業務に従事していたので会社の指揮監督下にあったと主張しましたが、業務上、作業衣を統一したほうが分かり易かったからとの理由でした。

以上により、請求人と会社との間には使用従属関係は認められず、療養補償給付及び休業補償給付を不支給とした原処分は妥当であるとされました。

 

使用従属関係がはっきりしない場合は、一人親方として労災保険に特別加入しておくのが安全ですね。特に今回の事例のような窓ガラスの清掃作業であれば危険度が高まりますので、労災保険への加入はとても重要です。

 

 




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