『会報 20163月号』(発行:東京都社会保険労務士会)より

 

タクシー乗務員の割増賃金について、時間外・深夜等の手当が別に支払われることになっているにも拘らず、他方で歩合給の計算に当たり、時間外・深夜労働に対する割増賃金に相当する額を控除する旨が定められていると、どれだけ時間外労働等を行なっても支給額が増加しません。このような規定は労基法を潜脱するもので、無効であると主張して未払い賃金の支払いを請求した事例です。

 

1.概要

本件のタクシー会社は、乗務員の賃金を、基本給、服務手当、交通費、割増賃金(時間外、深夜、公出)、それに歩合給で規定していました。歩合給については、歩合給を計算するための対象額から割増金(深夜、残業、公出手当の合計)+交通費を引いて計算することとされていました。

原告であるXらは、この歩合給の定めによれば、実際に発生した歩合の額から残業手当等の割増賃金と交通費を差し引いて支給されることになるので、割増賃金が支払われないのと同様の結果になると主張し、この賃金規定は労基法37条に違反するものであるとして、未払賃金(時間外等の割増金)の支払いを求めました。

 

2.判決の要旨

この賃金規定では、時間外等の労働をしていた場合でも、していなかった場合でも、乗務員に支払われる賃金は全く同じになるので、労基法37条の規制を潜脱するものと言わざるを得ません。労基法37条は、強行法規であると解され、これに反する合意は当然に無効となる上、違反した者には6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰が科せられます。

労基法37条は、特別の労働というべき時間外等の労働に対し、通常よりも割増しされた額の賃金による補償を行わせようとする趣旨に出たものと解されます。本件規定の下では、通常より割増しされた賃金が支払われる保証はありませんし、深夜のほうが通常の時間よりも必ず揚高が上がるという保証はありません。時間外労働についても、賃金の増加幅は時間外労働による揚高の大小に依存し、割増賃金に相当するだけの賃金増が保証されるものではありません。この点からも、労基法37条の要請を満たすということはできません。

以上のことから、本件規定のうち歩合給の計算に当たり対象額から割増金に見合う額を差し引くとしている部分は無効となります。タクシー会社は、基本給等の他

 ①賃金規則所定の計算による割増金

 ②対象額から交通費を差し引いた額の歩合給

を支払う義務があります。

 

 

次回は、判決の解説についてまとめます。


 

 










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