今回読んだ本は、浅田次郎さんの「沙高樓綺譚」です。今、並行して読んでいる本で、新田次郎さんの「武田勝頼」があるのですが、同じ“次郎”つながりという訳ではなく、本屋で並んでいる背表紙を眺めていて、この本が目に留まったのでした。各界の名士たちが集う「沙高樓」に、世の高みに登りつめた人々が秘密を語り始め、集いし人々は畏るべき内容に翻弄されるという、ありそうでなさそうで、でも実施にはあっても不思議ではないような...そんなことを考えてしまい、また身震いをしてしまうような小説です。


沙高樓綺譚 (文春文庫)/文藝春秋
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―― 「沙高樓」にようこそ。今宵もみなさまがご自分の名誉のために、また、ひとつしかないお命のために、あるいは世界の平和と秩序のためにけっして口になさることのできなかった貴重なご体験を、心ゆくまでお話し下さいまし ――

 で、摩訶不思議な世界へと入り込んでしまうのです。そして、

―― お話しになられる方は、誇張や飾りを申されるな。お聞きになった方は、夢にも他言なさいますな。あるべきようを語り、巌のように胸に蔵うことが、この会合の掟なのです――

 

内容は、沙高樓に集った名士のうち、5人がそれぞれの秘密を語るという形式で、短編が5つ入っているという構成になっています。

最初は「小鍛冶」という題名で、徳阿弥家という刀鑑定の家元に起きた不思議な事件の話です。物見と呼ばれる刀鑑定の席に、「甲斐江」という刀が現れて、それには切先から3分の1ばかりのところに大きな刃こぼれがあるのでした。甲斐江とは、武田信玄の差料であったと言われる郷義弘一代の傑作で、記録では明暦の大火で焼失していました。しかし、添書きは「武田信玄公川中島合戦御出陣之折、謙信公甲斐本陣ニ打込、信玄公打払タル傷有之」とあります。

さらにそれで終わりではなく、今度は「名物薬研藤四郎」が現れます。こちらは、大坂の陣で天守とともに焼け落ちた太閤遺愛の短刀なのです。

本来、焼失してしまってこの世には存在しない刀が目の前に現れているのです。果たしてこれはどういうことなのか ・・・ うーん、なぜかここで、今読んでいる「武田勝頼」の武田家で繋がりました。たまたま手に取った本なのに、偶然にもこんな繋がりかたをしてしまうとは、まさに綺譚...

 

もう一つ、「雨の夜の刺客」も紹介します。こちらは不可思議な話ではなく、やくざの世界で当然ありそうな話で、日本でも屈指の広域暴力団の親分が、まだ駆け出しの頃に起こした出入りの事件を語るというものです。実際の話は本を読んでもらうことにして、ここではこの話に出て来るコルト・ガバメント45という拳銃の豆知識を書いておきたいと思います。この拳銃は45口径のオートマチックで、今でもその手では高級ブランドですが、“ディフェンス”には向かない銃なんだそうです。ヒットマンは手の届くぐらいの至近距離から来るので、守る側は弾数も威力も必要なく、小口径のリボルバーがよいのだそうです。S&Wやベレッタならポケットにも入り、邪魔になりません。そもそもガバメントは米軍用で、身体の大きい兵士向けに設計されており、日本人にはグリップが大き過ぎます。握っても親指が安全装置に届かないし、さらにグリップの背がバネ式のダブル・セーフティになっているので、しっかり握らないと弾が出ないんだそうです。日本人なら両手を使わないと操作できないのですが、ヒットマンとディフェンスは至近距離の掴み合いなので、両手で銃を使う訳には行きません。このような知識、この先使うことはないでしょうが、こんな世界もあるということですね。



浅田次郎さんの小説を読むのはこの作品が初めてなのですが、浅田さんはこういう分野が得意な作家さんなんでしょうか。「草原からの使者―沙高樓綺譚」という題名の小説もあるようなので、見つけたら読んでみようと思っています。

  

 








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