『月刊社労士 20161月号』(発行:全国社会保険労務士会連合会)より

審査請求の期間と時効

 

『月刊社労士』に毎号載せられている「社会保険審査会裁決事例」の内容を要約してご紹介します。

 

●主旨

請求人は皮脂欠乏性湿疹と間質性肺炎(請求傷病)の診療をそれぞれ異なる期間に受け、その診療に要した費用を支払いました。請求人は労災保険法による療養補償給付を請求しましたが、労基署長は請求傷病が業務上の事由または通勤によるものとは認められないとして、支給しない旨の処分をしました。請求人は、労災保険審査官への審査請求を経て、再審査請求を行いましたが棄却されました。

次に、健保法の任意継続被保険者であった請求人は、健保法による療養費の支給を申請しました。しかし、労災申請期間中の審査に要する期間は事項中断事由に当たらず、既に時効が完成しているとして、療養費を支給しない旨の処分がなされました。請求人はこの処分を不服として、社会保険審査官への審査請求を経て、再審査請求を行いました。

不服とした理由は、業務上の事由によるものまたは通勤によるものであれば労災療養給付が、それが業務外の事由によるものであれば健保法の療養費が支給されるものであり、労災療養給付の支給を求めて審査請求していた間は健保法に規定する時効は中断する、というものです。

●裁決

時効の中断が認められ、健保法の療養費請求に係わる消滅時効は完成していないとされて、療養費が支給されることになりました。

●経過

請求傷病が業務上もしくは勤務によるものかどうかにより、労災保険法または健保法のいずれか一方の保険給付が支給される現行制度に照らすと、両給付は別の給付ですが、その設計上は表裏一体のものというべきです。

両給付を同時に請求することは理論的には可能ですが、労災療養給付については業務上の事由または通勤によるものであることを主張し、健保療養費については業務外の事由によるものであることを同時に主張しなければならず、それは事実上極めて困難なことになります。従って、健保療養費支給請求権の消滅時効に関しては、労災療養給付に支給請求および審査請求・再審査請求を行っていた間は、同時に健保療養費の支給請求をも行っていたものと見なすのが相当と言えます。

労基署長が労災療養給付を支給しない旨の処分をしたことをもって、行政庁による一応の判断が示されたとして、その時点で健保療養費の請求をすることは可能であったとする考え方もありますが、これは審査請求制度および再審査請求制度の趣旨・目的をないがしろにするものであるので、採用はできません。

そうすると、健保療養費に係わる2年の消滅時効の起算点は、労働保険審査会が再審査請求を棄却した日より後になるものと認めるのが相当であり、請求人が健保療養費の支給を申請した時点においては消滅時効は完成していなかったというべきです。

以上のとおり、健保療養費を支給しない旨の処分は理由がないので取り消され、療養費は給されることになりました。

 

 

業務上の事由によるものまたは通勤によるものであれば労災療養給付が、それが業務外の事由によるものであれば健保法の療養費が支給されるという、労災保険と健康保険にまたがった知識が必要な、勉強になる裁決事例でした。



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