『会報 20161月号』(発行:東京都社会保険労務士会)より

 

従業員が仕事の過程で会社に損害を与えた場合、使用者は従業員に対して損害賠償請求ができます。しかし一般の取引関係とは異なり、労働関係においては、使用者は労働者を使用することで利益を得ているのだから使用者が負担すべきという責任制限法理が判例で形成されています。今回の事例は、従業員の業務の不適切実施やノルマ未達などによって、会社の売上げが減少したというケースです。基本的に、業務に伴う労働者の過失による損害については、労働者は責任を負わないとされていますが、問題はどのような場合に労働者の責任が縮減されるのか、その判断基準はどのようなものか、という点です。

今回は、判決の解説についてです。

 

3.概要

(1)責任制限の根拠

責任制限について、その根拠と限度は

「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し損害の賠償又求償の請求をすることができる」

とされています。

責任制限について1審判決では、

「労働者が労働契約上の義務違反によって使用者に損害を与えた場合、労働者は当然に債務不履行による損害賠償責任を負うものではない。労働者のミスは元々企業経営の運営自体に付随、内在化するものであり、業務命令内容は使用者が決定するものなので、その業務命令の履行に際して発生するであろうミスは、業務命令自体に内在するものとして使用者がリスクを負うべきものであると考えられる。使用者は

 ・その事業の性格 ・規模 ・施設の状況 ・労働者の業務の内容 ・労働条件 ・勤務態度 ・加害行為の態様 ・加害行為の予防若しくは損害の分散についての使用者の配慮の程度

その他諸般の事情に照らし、労働者に対し損害の賠償又求償の請求をすることができる」

と述べられています。

このように、労働関係の特質を考慮することによって、報償責任・危険責任を根拠にして、責任制限法理が形成されています。労働者が業務を遂行する上で通常伴う軽過失による損害の場合には使用者が負担すべきであって、労働者に故意又は重過失がある場合には、労働者は責任を免れないが、その場合でも諸事情を考慮して一定の範囲で責任が縮減されることになります。

 

 

次回は、責任制限の判断基準についてまとめます。

 

 

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