『月刊社労士 201512月号』(発行:全国社会保険労務士会連合会)より

 

安倍政権の「新・三本の矢」の1つに「介護離職ゼロ」が掲げられました。これまで後手に回りがちだった高齢化対策が政策ターゲットになったことは評価に値します。先立って厚労省は、「今後の仕事と家庭の両立支援に関する研究会」を立ち上げ、報告書をまとめました。現代の急速な少子高齢化に対する雇用管理上の課題を取り上げた記事が会誌に載っていましたので、わたしもいつ介護の問題に直面するかも知れず、その要旨をまとめてみました。

 

1.情報提供と制度の整備

介護休業の取得者割合は3%程度であり、介護休暇の取得率はさらに低くなります。反面、介護ニーズを満たすために使われているのは年次有給休暇です。調査によると、これは次の理由からと考えられます。

 ・会社に制度がなくても、法的に認められた権利であることを知らない

 ・制度をおいていない会社では、介護休業を取ることが歓迎されない雰囲気を感じ取る

 ・公的介護保険制度の仕組みが分からないという不安を抱えている

 

このことから、企業が適切な制度を整備し、正確な情報を積極的に提供することが重要となります。

 

2.「働く」ための「休み」

介護のための休業(休暇)を取らず、年休で対応するのか、それにはいくつかの理由が考えられます。

 ・休業申請によって、介護との関わりを表明することで、会社における中核的なプレイヤーとしてみなされなくなるとの懸念がある

 ・介護は期間のばらつきが大きく、見通しが立ちにくいため、将来の深刻な事態に備えるために介護休業を取り控えてしまう

 ・介護休業イコール介護への専念という固定観念で、労働者と企業が縛られている

 

そこで、研究会では介護休業と介護休暇の考え方を整理しました。

介護休業(要介護状態ごとに通算93日) : 介護の体制を構築するために一定期間休業する場合に対応する制度

介護休暇(要介護者1人につき年間5日) : 介護の体制を構築した後の期間に定期的・スポット的に対応する制度

 

介護休業は働き続けるための積極的なステップだと考えられれば、休業(休暇)の申請へのためらいを減らすことができます。

 

3.普段の働き方の変革

職場の問題は「休み」の部分だけを改革しても限界があります。普段の「働き」の部分を変えて行かないと長期にわたる持続可能性を保つことはできません。例えば、側場に一律に長時間拘束されるような働き方では、介護との両立は物理的に困難です。

介護を理由に離職する人は年間10万人と言われています。しかし、介護離職が社会的な大問題として取り上げられている背景に、人数の増加だけでなく、会社で中核的な位置づけにある男性正社員に影響が及びつつあるという事実があります。従って、柔軟な働き方の実現は、一部の特殊なニーズへの対処ではなく、職場、そして社会の全員に関わる課題だという意識が肝要となります。

 

 

現代の晩婚・晩産化は、育児と介護のダブルケアを迫られる労働者を増加させて行く可能性が高いと思われます。心配している段階ではなく、既にどうやって対処するか、具体的な行動を起こさなければならないところまで来ているのですね。

 


 

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