『会報 20161月号』(発行:東京都社会保険労務士会)より

 

日本の社会保障が抱えるテーマとして“社会保障の持続可能性”が言われますが、これには3つの側面があります。①財政面における持続可能性 ②人口面における持続可能性 ③人々の意識面における持続可能性 です。高齢者数の増大と、経済を支える生産年齢人口の減少が高齢化を進展させ、これを原因に経済成長の停滞と国家財政の逼迫が引き起こされ、不安定な社会環境が、前提としての基盤である人々の連帯や支え合いを揺す振らしつつあります。今回、この3つの側面を踏まえた高齢化社会における社会保障を考察し、課題提起する記事が会誌に載っていましたので、その要旨をまとめてみました。

今回は、社会保障の方向性についてまとめます。

 

2.社会保障の方向性

国家財政上の制約を抱え、少子高齢社会の到来を迎えた日本の社会保障の方向性を考える際、留意すべき3つの点があります。

(1)負担をめぐる議論

社会保障・税一体改革は、目的税としての消費税率引上げによる社会保障4分野の安定化・充実と財政健全化の観点から行われましたが、留意すべき点として、日本の付加価値税率は欧州諸国と比べて低いということです。低所得者向けの社会保障施策の実施を取り止め、高所得者にも恩恵の及ぶ軽減税率を優先しようとしていることは、筋の通らないところがあり、日本ではさらに消費税率引上げの余地があることから、軽減税率の適用は今後の課題にすべきでは、との見かたもあります。

(2)格差問題への対応

有効求人倍率は1を上回り、一定の雇用状況の改善は見られるようになりました。しかし、正社員有効求人倍率は1を下回り、非正規雇用労働者の割合が40%に達するなど、労働者間における雇用格差が存在しています。貧困・格差問題は社会経済的に深く構造化しており、好景気になれば一気に解消されるというような単純な問題ではなくなっています。

こうした状況下で、限りある社会保障財源の割当て優先順位を議論することは重要であり、そうなると公的財源は低所得者・貧困者に相対的に重点を置いて割当てすべきと考えられます。

(3)つながり支援

社会保障は、老齢・障害・疾病・失業・労災などの社会的事故の発生に対しての所得保障と捉えられていました。対して近年は、“社会的排除”に焦点が当てられるようになって来ており、目指すべき方向性としての“社会的包摂”が指摘されています。そこでは社会保障の不可欠な要素として所得保障のみならず、福祉的な支援の必要性が示されています。

このようなサービス給付に代表される個人のニーズに合わせた寄り添い型の福祉的支援という方向性は、単に貧困者のみばかりでなく、虐待・いじめ、ニート、ひとり親など様々なニーズを抱えた対象者に対するきめ細かな社会との“つながり支援”という視点で、今後さらに整備されていく必要があります。

 

こうした社会保障に向けられる視点の変化は、専門職たる社労士の将来の在り方にも重要な課題を提起することになる、と寄稿された大学教授の方は述べています。狭い意味での社会保障・福祉という枠を超えて、地域社会・コミュニティに根を下ろした活動を行えるかが、その鍵を握っているとのことです。

 

 






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