『月刊社労士 201512月号』(発行:社会保険労務士会連合会)より

 

発達障害は小学校低学年で発症するため、子供だけの診断に限定されがちですが、大人にも発達障害はあります。発達障害の概念が一般に浸透するにつれ、自分は発達障害ではないか、と診断を求めて精神科を受診する人が現れて来ました。大人の発達障害の診断を希望するのは、自分の抱える不便さ、不自由、苦痛の根源のためであり、その先には、治療というより相談や援助があるとされているそうです。

わたしは今回初めて耳にしましたが、うつなどの精神面の疾病、メンタルヘルスに関係するところも多々あると思い、今回の解説記事をまとめてみました。

 

1.法的動向

日本では、平成26年に障害者権利条約が批准され、この条約批准のために関連する法律の制定や改定が行われました。また、障害年金の認定基準、精神障害者福祉手帳の取得判定基準の改正にも大きな影響を与えています。

行政による障害者への就労支援が展開され、障害者雇用枠で企業への就職が促進されていますが、一方では雇用する側の企業やそのアドバイザーである社労士へ、発達障害に関する情報や法的制度の周知が不足しているのが現状です。

 

2.概念成立とその目的

発達障害は、1963年に米国公法に初めて登場し、1970年に成立した「発達障害サービス及び施設整備法」に「精神遅滞、脳性まひ、てんかんほか、精神遅滞に密接に係わり、同様の処遇を必要とする神経的状態」と定義されました。

こうした定義に従えば、発達障害は医学的治療のためというより福祉的支援のために生まれた概念であると言えます。

 

3.発達障害者支援法

発達障害者支援法では、具体的な疾病を列挙していますが、そのうち大人の発達障害の受診を巡っては、アスペルガー症候群とADHDが圧倒的に多いとされています。

米国精神医学会の基準であるDSM体系は、発達障害を神経発達障害に分類し、自閉症スペクトラムという発達障害を連続体で捉える概念を採用し、その中にアスペルガー症候群やADHDを取り込んでいます。

 

4.発症状と特性

大人の発達障害の特性を個性として捉えるのか、疾病の病状として捉えるかは難しい問題です。(1)自閉症スペクトラムとアスペルガー症候群

ウイングの考え方では自閉症スペクトラムの症状を、社会性、コミュニケーション、イマジネーションの3つの障害であるとしています。アスペルガー症候群はコミュニケーションの障害が軽微であり、知能レベルの高い人も少なくないと言われています。

(2)ADHD

この症状は、不注意、多動性、衝動性であるとされていますが、誰にでも見られる症状であることから正常との線引きが難しくなります。

(3)その他の発達障害の特性

発達障害者の行動面に着目した場合には、特性として捉えることができます。代表的な特性は次のようなものがあります。

 ・ストレスに対する過敏性がある

 ・情報の全体把握が苦手で、優先順位が付けられない

 ・同時並行処理が苦手

 ・同じ状態や繰り返しを好み、変化を嫌う

 ・物事へのこだわりが強い

 

5.障害者雇用

発達障害者支援法が成立し、発達障害が精神障害として正式に認められました。発達障害は、法定雇用率達成算定対象の中に含まれます。発達障害者は、障害者手帳を提示することで障害者雇用枠での就労が可能となり、従来に比べ、持てる職業能力を発揮できるようになりました。

 

 

次回は、障害年金や労災認定についてまとめます。

 

 

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