『月刊社労士 201512月号』(発行:全国社会保険労務士会連合会)より

 

所定時間外に負傷した特別加入者の労働者資格

 

『月刊社労士』に毎号載せられている「労働保険審査会裁決事例」の内容を要約、情報追加してご紹介します。

 

<事例趣旨>

請求人は木材関係を扱う家族従事者であり、中小企業事業主等として労災保険に特別加入していましたが、所定時間外(午後6時過ぎ)にトラックの荷台から転落し、骨折しました。請求人は、本件負傷は業務上の事由によるものであるとして休業補償給付を請求しましたが、労基署長は業務上の事由によるものとは認められないとして、支給しない旨の処分をしました。請求人はこの処分を不服として再審査請求を行いました。

本件は、災害発生時が所定労働時間外で、負傷が特別加入の業務に起因する行為であって、労働者資格が認められるか否か、がポイントになります。

<裁決結果>

本件の災害時に行っていた所定労働時間外の業務は、特別加入者である請求人に対する業務遂行性を認められることから、休業補償給付を支給しない旨の処分は取り消されました。

<事実の認定及び判断>

中小企業事業主等の特別加入者については、次の場合に業務遂行性が認められるものとされています。

 1.特別加入申請書別紙の業務の内容欄に記載された、労働者の所定労働時間内において為す行為(事業主の立場において行う事業主本来の業務を除く)及びこれに直接付随する行為を行う場合

 2.労働者の時間外労働または休日労働に応じて就業する場合

 3.就業時間に接続して行われる準備・後始末の業務を特別加入者のみで行う場合

 4.上記1~3の就業時間内における事業場施設の利用中および事業場施設内で行動中の場合

 

本件災害が発生したのは所定労働時間外であり、また一緒に作業していたのは請求人の妻のみでした。また、最後まで常用労働者として働いていたのは、木の伐採やトラックの運転を行う2名の労働者でしたが、その2名が辞めた後(午後5時以降)、トラックでの運搬等をしていました。

こうした状況を鑑みると、木材の伐採は特別加入申請書別紙記載の業務や就労していた労働者の就労状況からみて、事業内容及び特別加入の申請に係わる事業のためにする行為であって、事業主の立場において行う事業主本来の業務ではないとみなされます。また、業務終了時間後に行われた業務については、「日が暮れてからは危険なため、山の仕事は行わずトラックでの運搬を開始する」旨の申述から、特別加入の申請に係わる事業のためにする行為かは不明確であり、むしろこれに付随する準備・後始末の行為であると考えられます。

これらのことから、特別加入の申請に係わる事業のためにする行為に接続して行われる準備・後始末の業務を、当別加入者である請求人のみで行ったとみなされ、これは認定基準の3.に該当します。

以上により、請求人の負傷は特別加入の業務に起因する行為であって、労働者資格が認められることから、労基署長が請求人に対して行った休業補償給付を支給しない旨の処分は失当であり、取り消されました。

 

 

労災認定における業務遂行性を判断するポイントは通常の労働者でも難しいですが、今回のような中小事業主等の特別加入者についてはさらに条件が厳しく複雑になっていますので、正しく判断するには注意深く進めていかなければならないですね。

 

 









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