事務所便り 2010年10月号(1) 略称“社労士”使用禁止の背景

『会報 2010年10月号』(発行:東京都社会保険労務士会)より

 

略称“社労士”使用禁止の背景

 

社会保険労務士を“社労士”と省略することはよくありますが、過去に略称“社労士”の使用に対してかたくなに反対を唱えていた時期があったそうです。それには、社会保険労務士という名称が13年にわたる先達の方々の苦労が実を結び、ようやく手にした国家資格であり、名称であったという深い理由があったのです。東京都社会保険労務士会の会報 2010年10月号に、社会保険労務士制度推進月間(10月)にちなんでその背景が紹介されていましたので、その内容を簡単にまとめてみました。

1.名称にこだわった理由

「社会保険労務士法」は、社団法人日本労務管理士協会が「労務管理士法」の名称で法制化に向けて動き出したのが始まりです。昭和20年代の中ごろから登場した「手続代行業」は悪徳業者が横行したため、そのような状態を解消するために協会を作り、そして身分法による国家資格の獲得を目指そうという運動に発展しました。

この名称は当時の社会党からのクレームで「管理」の2文字を外すことになり、「労務士法」となりました。

一方、社会保険の世界でも昭和37年に社会保険庁が設立されたのを契機に、各地に相次いで社会保険士協会が作られ、そして「社会保険士制度」法制化の動きが出てきました。労務士法の成立を目指してきた労務管理士協会は、状況によっては社会保険の手続業務が外されて、職域が狭くなる恐れがあるため、この社会保険士会を無視できなくなります。

2.名を捨て“実”を取る

労務管理士協会は「労務士法」から「労務保険士法」に改称して社会保険も取り込もうとしました。ところが、社会保険士会は、生命保険や損害保険ではなく社会保険を扱うのだから社会保険と明示して、かつ頭に冠せよ、と注文をつけてきました。この注文が受け入れられないなら社会保険士制度は独自に法制化して、労務保険士は社会保険を扱えないようにする、と頑固に主張してきます。そして昭和42年には、財団法人日本社会保険士会が設立認可されます。

法案成立を目指して12年間に及ぶ活動を展開してきた労務管理士協会は日本社会保険士会からの要望を予測していなかっただけに、名称問題を協議しても名案が出ませんでした。そして、「ようやく国会提出まで辿り着いたのに、名称のことで法案提出を先延ばしにはできない。この際、名を捨て実を取ろう」と決意し、日本社会保険士会の条件を受け入れ、「社会保険労務士法」が成立したのでした。

略称を使うな、という背景には、このような法案成立まで名称のことで苦労し、それを乗り越える熱意と努力があったのです。だから“社会保険”も“労務”も、どちらも省略してはならないというわけですね。

正直なところ、“社会保険労務士”という名称は長くて、まどろっこしいと感じることもあるのですが、これからはむやみに省略しないように心がけたいと思います。

 

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