事務所便り 2010年7月号(3) 特集 - 改正労働者派遣法の基本的課題(その2)

『会報 2010年7月号』(発行:東京都社会保険労務士会)より

 

座談会 - 派遣労働者の就業条件整備と改正労働者派遣法の基本的課題

 

7月号の会報に、労働者派遣事業に係ってきた3名の社労士の方々で座談会が行われ、その模様が特集として載せられていましたので要旨をまとめてみました。前回の座談会の続きです。

 

4.製造業派遣で起きる諸問題

製造業派遣が解禁となってから派遣労働者に対するセーフティーネットである雇用保険の失業給付制度などを国が十分整備しておかなかったことが問題だ、と指摘されています。解禁された当時は雇用期間に1年以上の見込みがないと雇用保険には加入しなくてもよいルールでした。この問題は昨年、雇用保険法が見直され31日以上の雇用見込みのある労働者は雇用保険への加入が義務付けられました。

日雇派遣については、主婦や学生、他に仕事を持っている人などが都合のつく時間だけ働いて収入を得ている、という現実もあります。それらも全てひとくくりで日雇派遣として禁止してしまうとこのような人たちの就業機会を奪ってしまうことになる、という問題が挙げられています。確かにそんなことになると逆効果ですね。

5.違法派遣

派遣先が違法であることを知りながら派遣労働者を受け入れている場合は、派遣先が派遣労働者に対して労働契約を申し込んだものとする“みなし規程”については、定義のグレーゾーンが存在し、派遣会社にとっては酷な内容になっています。労働契約も契約の1形態であり、契約の自由を規制することは自由主義国家の労働法制上ではあり得ないという意見もあるようです。

グループ企業内派遣の8割規制や、いわゆる“もっぱら派遣”については、相談を受けたことはないそうです。派遣元、派遣先、派遣労働者が困っていないにも関らず、グループ企業内派遣の8割規を法改正に盛り込んだ理由がよく分からない、といっています。

 

グループ企業内派遣の8割規制や「専ら派遣」については、実はよく知らなかったので調べてみました。「専ら派遣」とは派遣元が労働者を特定の一社または複数者に限定して派遣することです。派遣社員はあくまでも一時的な労働力として用いられることが前提であるため、派遣が特定の企業の労働力確保源となることにより正社員の雇用を阻害することになり、労働者派遣法により禁止されています。「専ら派遣」をどの程度行うと違法となるかが曖昧なため、実際には大企業等が人件費を抑える目的で全額出資の人材派遣子会社を設立し、グループ会社などに労働者を派遣しているケースは少なくありません。それで今回の改正法案では、グループ内に派遣できる割合を8割以下とする等の規制を設けているということです。

このような「専ら派遣」の実情を見ると、労働者派遣法が制定された当時からは、現在の労働者派遣に対する考え方が大きく変わってきていることがよく分かります。労働者派遣の見方を根本から考え直すことが労働者派遣法の改正の第一歩であることの典型のような気がします。