私の体験によれば前にもしばしば述べたように、
 
人生の最大幸福は職業の道楽化にある。
 
富も、名誉も、美衣美食も、職業道楽の愉快さには比すべくもない。
 
道楽化をいい換えて、芸術化、趣味化、娯楽化、遊戯化、スポーツ化、もしくは享楽化等々、
それはなんと呼んでもよろしい。
 
すべての人が、おのおのその職業、その仕事に、全身全力を打ち込んでかかり、
 
日々のつとめが面白くてたまらぬというところまでくれば、
それが立派な職業の道楽化である。
 
いわゆる三昧境である。
 
そうしてこの職業の道楽化は、職業の道楽化それ自体において充分酬われるばかりでなく、
 
多くの場合、その仕事の粕として、金も、名誉も、地位も、生活も、
 
知らず識らずのうちにめぐまれてくる結果となるのだから有難い。
 
—『私の財産告白』本多 静六著より