先日いただいた、みのりさんのコメントを紹介したいと思います。
”来年の春頃にシカゴに行こうと思っています。ブルーズシンガーとして、自分がどれくらいのボーカリストなのか試したいと思っています。私は楽器は一切できなくて、持ってるものは歌うという事だけです。約一年、その為に何を準備すればいいと思いますか?私の歌を聴いた事がないから何とも言えないとは思いますが、最低限これは必要というものがあれば教えて頂きたいです。よろしくお願い致します。”
コメントを読んで、きっとみのりさんだけでなく、ブルースを歌う多くのシンガーが聞きたいことなのかな、と思ったので、自分なりのアドバイスをここで書いてみたいと思います。
まず、シカゴに行くまでにやってほしいのは、なるべく英語に馴染むことです。
音楽とはいえ、やはりコミュニケーションが大切。稚拙な英語でも、なんとかコミュニケーションが取れれば、あとは音楽の力も加わって人間関係が広がっていくし、チャンスが訪れることもあります。ハワイやカリフォルニアと違って、シカゴは日本人、日系人が少ないので、現地でのコミュニケーションは全て英語だと思ってください。特にシンガーの場合は、なるべく普段から英語に接する機会を持つのは大切ですね。
ブルースのスタンダード曲は歌詞が英語なので、ネイティブのアメリカ人が聞いて何を歌っているのかがちゃんと分かることが最低条件だと思っています。自分の歌を録音してそれを聞き返し、オリジナルのシンガーとの英語表現を聴き比べてみてください。特に発音はしっかりチェックしてみるといいと思います。日本人には難しいRやLの発音、Th、Fの発音等、舌や唇の使い方がマストな単語を注意して練習するのはとても良いですね。
簡単な英語の本を声を出して読むのもいいし、アメリカのドラマを見たり、なるべく日常的に英語に接して発音する機会を作ってください。自分はアメリカにいた頃、よく運転してる時に目に入る通りの看板を順に発音していく遊びをやっていました。店の名前だったり広告の文章だったりするのですが、こうした単語や短い文章をいつも発音するような癖をつけていました。
歌詞をメロディーをつけずに読むのもいいですね。歌詞の中の物語や、そこに潜む感情などを感じながら読み取る。ブルースのフィーリングの多くは歌詞に込められていますからね!ココ・テイラーにしても、JWウィリアムスにしても、素晴らしいシンガーは歌いながらその主人公になりきっているのが、隣でギターを弾いていてものすごく伝わってきました。
そして歌に関してですが、
1、3曲はステージで歌えるレベルで準備をしてください。シカゴに行ったらまずはジャム・セッションに参加することになると思いますが、ジャム・セッションでは3曲くらいを演奏し、曲は必ずシンガーが決めます。
2、歌詞カードを見ないで歌うこと。シカゴでは歌詞カードを見ながら歌うシンガーはいません。歌詞を覚えるのはシンガーの最低限のエチケットで、歌詞を覚えてないという事は、その曲を覚えてないことになるので、シンガーとして評価される事はありません。
3、ミュージシャンへの譜面も必要ありません。基本的にシカゴのブルースシーンは譜面を使って演奏することがないからです。そこで、歌う3曲はなるべく3コード12小節のブルースのスタンダード曲、それ以外のコード進行の場合でも、よく知られるスタンダード曲を選ぶことをお勧めします。
シカゴのジャム・セッション情報は、拙著「世界のブルース横丁」のP58からP61にかけて、ジャム・セッションに役立つ英会話、英単語はP251〜P254に掲載しています。こちらも、ぜひ参考にしてみてくださいね!
https://www.rittor-music.co.jp/product/detail/3116313018/
他にシンガーに求められるのは、ショウをやれるスキルです。
歌がうまいだけでなく、ミュージシャンへソロを上手に振り分け、テンポの速い曲、遅い曲などを織り交ぜ、お客さんを楽しませながら全体を盛り上げていく。
自分が駆け出しの頃、ジュニア・ウェルズが言ってくれた言葉があります。
”Don't play for yourself. Play for the band, play for people"
この言葉を自分なりに
”自分の為だけにプレーしてはいけないよ。バンド、そしてお客さんに向けてプレーするんだ”
と訳してみました。
People's Musicとして発展してきたブルースの真髄を突いた言葉ですよね。