彼は、癌が判明してから、すぐにそれまで持っていた大型バイクを手放した。


「もう乗れないだろうし、少しでも治療費に当てたいから」 


でも、最初の抗がん剤が予想以上に奏効してバイクに乗れる体調まで戻してきて、「バイクに乗りたい病」がムクムクと出てきた。


もともと彼が乗りたかったのは、DUCATIというイタリアのバイク。

私と再会した頃はそれに乗っていたのに、維持費が大変になり手放してしまった。


だから、本当はまたDUCATIを買いたかったけど、彼の欲しいDUCATIは価格が高騰しており、仕方なくハーレーダビッドソンにした(それも決して安くないが、最期の贅沢と思ったんだろう)。




2022年の2月に買って、納車したのは乗るのに季節が良くなってからの4月下旬。

大柄の彼にぴったりの1600ccのでかいやつ。

仕方なくといってもバイク乗りとして「いつかはハーレー」という思いもあったし、もともと「人生の最期に乗るバイク」として考えていたのかもしれない。


でも、抗がん剤によって体力の落ちた彼にとっては、重いハーレーを動かすのはなかなか難儀だったそうタラー


また季節的なものもあり(寒いとか暑いとか)

6月からは脚に浮腫もでてきてブーツも履けなくなり

結局、10回も乗れなかったのでは?悲しい



2023年の7月に腎瘻になって「バイクはもう乗れない」と言われたそうだ。

彼の16歳の時からの唯一の趣味であるバイクを奪われて、ほんとに悲しかったようだ。


でも、涙は出なかったそうだ。

粛々と受け止められたと。

頻繁に涙が出るようになったのは、体調がいよいよ悪くなった亡くなる1月前くらいの8月下旬になってから。

「亡くなるかもしれない」と思って、それまでは「人間いつから死ぬもの、怖くない。」と言ってたけど、いよいよとなったら、この世に未練がたくさんあって、涙が出てくると言っていた。




持ち主を失ったあのハーレーダビッドソンはもうあの家にはないんだろうな。


あの時ハーレーを売ったお店の方も、彼がそれから1年半後に亡くなるなんて、当たり前だけど思ってもいなかっただろう。

新しいオーナーの方には長く乗ってほしいですね·····