『赤い鳥』の朗読復刻で童話を読みまくってると、書きたくなってしまいました。

趣味で書いたというよりは、生徒さんから相談を受けたときにお話ししているような内容を童話にしたものです。

 

子供の頃に聞かされた話と、高村光太郎『智恵子抄』の「レモン哀歌」からヒントを得ました。

 

 

酸っぱいりんご

 

金谷俊一郎

 

昔、昔、あるところに、とても美味しい実をつけるりんごの木がありました。

 

そのりんごを食べると、どんな人でも、たちまち笑顔になりました。

 

りんごの木は、みんなが笑顔になるのを見るのが大好きでした。

 

 

ある日、りんごの木の元に、一人の男がやってきました。

 

男は、遠い遠い国からやってきたらしく、ひどく疲れ果てた様子でした。

 

 

りんごの木は、男を笑顔にしたいと思いました。

 

りんごの木は、なっているりんごの実の中から、とっておきの1個を男に手渡しました。

 

男はりんごをかじりました。

 

りんごの木は、男が笑顔になるのを待ち構えていました。

 

しかし男は笑顔にはなりませんでした。

 

それどころか、りんごをかじった男は、みるみるしかめっ面になったのです。

 

 

りんごの木は、心配になって男にこう尋ねました。

 

「どうしてあなたは、りんごをかじった時、しかめっ面になったのですか?」

 

男はこう答えました。

 

「私は遠い遠い国からやってきました。

 

とてもとても疲れています。

 

そんなときに私がいつも食べているものがあります。

 

それはレモンです。

 

レモンをかじると酸っぱさのおかげか、疲れが吹き飛びます。

 

しかもレモンにはビタミンCがたっぷり含まれていて、お肌にもとっても良いのですよ。

 

抗酸化作用もあって老化防止にもつながるのです。

 

さらに、唐揚げにかけると唐揚げがとても美味しくなるのです。

 

私はレモンが大好きです」

 

これを聞いたりんごの木は、とても悲しい気持ちになりました。

 

 

でも、りんごの木はあきらめませんでした。

 

男を何とかして喜ばせたいと思いました。

 

「レモンのような実をつけたい」

 

りんごの木は思いました。

 

 

りんごの木は、レモンの成分や、生育環境、レモンの生育に適した土壌などを、一生懸命調べました。

 

「男に『美味しい』と言ってもらいたい」

 

その一心で、りんごの木は頑張り抜きました。

 

 

次の年、りんごの木はとても頑張ったおかげで、レモンのような味を出すことに成功したのです。

 

りんごの木は得意な気持ちになりました。

 

「これで、あの男の人も笑顔になってくれる」

 

りんごの木はウキウキした気持ちになりました。

 

 

りんごの木に、幼い子どもとお母さんがやってきました。

 

りんごの木は、とっておきのりんごの実を1個、子どもに差し出しました。

 

すると、そのりんごの実を食べた子供がこう言いました。

 

「このりんご、酸っぱくておいしくないよ」

 

隣にいたお母さんがこう言いました。

 

「そんなことはないよ。この木になるりんごは本当においしいのだから」

 

そう言いながらお母さんは、りんごをかじりました。

 

すると、お母さんは、みるみるしかめっ面になりました。

 

お母さんは、りんごの木を眺めながら、こう言いました。

 

「今年のりんごは酸っぱくて美味しくないね。このりんごの木もダメになってしまったのかしら」

 

お母さんと子供は、そのまま、りんごの木から立ち去ってしまいました。

 

 

それから、誰もそのりんごの木のりんごを食べようとはしなくなりました。

 

りんごの木の周りには、誰もいなくなってしまいました。

 

 

そして、あの男も、二度とりんごの木には戻ってきませんでした。

 

 

 

リンゴハ、美味シイリンゴノ実ヲツケルニ如カズ

 

(令和四年十一月八日)

 

 

メンバーに朗読してもらおうかな?(職権乱用…)