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『日本史B 一問一答~完全版~』(東進ブックス)が増刷の運びとなりました。
29版です。
こちらは 2nd Edition、つまり改訂版となっておりまして、改訂前の 1st edition も50版を超えましたので、ロングランに皆様にご支持頂いていること心より感謝申し上げます。
さらに今回の増刷部数については具体的な部数は申し上げることはできませんが、参考書の新刊本の発行部数の10倍近い増刷をいただきました。
出版不況、18歳人口の減少、一般受験をする受験生の減少という三重苦の中で、このような評価を頂けましたことは皆様のおかげであると心より感謝申し上げます。
『日本史B 一問一答~完全版~』を作る上で私がこだわりにしたことがあります。
それは「出題される形での再現性」と「内容の網羅性」、そして「データの有効性」です。
本書の出発点は 1993年まで遡ることができます。
それは、1993年三省堂さんより出させていただきました『日本史のそのまま出るパターン一問一答』です。
私の処女作で、まだ20代の頃の作品です。
こちらを書こうと思ったきっかけが最初に申し上げた「出題される形での再現性」を追求したものを受験生に提供しようという思いでした。
当時発売されている同様の書籍は、入試に出題される形ではなく、教科書などに記されている表現を一問一答の形に切り取ったものがほとんどでした。
そのため一問一答を使っても、その一問一答に書かれている表現とは全く違う形で入試に出題されるため、仮にその一問一答をやっていた時は解けていたとしても、入試問題を見た時に別の問題と勘違いしてしまい解けないという事態が多く起こっていたからです。
当時はまだ私は参考書を出しておりませんでした。
その頃も受験生からどのような参考書が良いのかという質問をよく受けました。
現在、私の蔵書には私の著書以外の学習参考書はありませんが、当時は神田の三省堂書店さんなどに足繁く通い受験生のニーズに応えられるような家庭学習用の参考書を探しておりました。
その際に当時売られていた一問一答を見て、本書の作成を思いついたわけです。
最初は予備校での冬期講習の文化史の講座で家庭学習用のプリントとして配布いたしました。
ありがたいことにそれが非常に役に立ったという声を多くいただきました。
その声を聞いた古文の和角仁先生のご紹介を受けまして出版の運びとなった次第です。
その際に支持された理由というのが、
「この本に書いてある通りに入試に出た」という声です。
ここで最初の目的である「出題される形での再現性」が達成されたということになったわけです。
ただこの段階で私は次の葛藤に苛まれることとなります。
それは「この本に書いてある通りに入試に出た」という声と同時に
「この本に載っていない内容が結構入試に出るんだけど」という声でした。
ここには当時の参考書業界の限界がありました。
学校採用などでかなりの部数が見込める参考書でない限り、分厚いページ数で安い参考書を作ることは、当時でも出来ませんでした。
『日本史のそのまま出るパターン一問一答』も250ページしかありませんでした。
典型的なパターンはある程度収録することができましたが、全てのパターンを収録するということはできませんでした。
何度も出版社さんに掛け合ってみたのですが、やはりそれだけのページ数となってしまうと定価が1500円や2000円になってしまうということになり現実的ではないという話になりました。
これは出版社さんが悪いわけではありません。
私の処女作を世に問うてくれた三省堂さんには感謝の言葉しかありません。
これはある意味学習参考書の限界だったのです。
そのような中で東進ブックスさんから
「先生の仰っている企画で1000円以内で作りましょう。私たちは予備校の合格実績が上がることが第一なので、採算ベースよりも受験生の成績が上がり予備校の実績が上がる参考書であれば作りますよ」
というありがたい言葉をいただきました。
そのため、三省堂さんから出している本の完全版という形で
『日本史B一問一答~完全版~』を2004年に発売する運びとなりました。
姉妹版が別の出版社から出版されることになった経緯はそういうことです。
このことは今まで表には発表してこなかったことなので、当時をご存知の方は「金谷俊一郎は不義理な人間だ」みたいなことをおっしゃっていたという記憶がありますが、こちらの話は三省堂さんの当時編集であった佐藤さまとの間に、円満に進んだということを今申し上げておきます。
東進ブックスさんの思いと三省堂さんのご理解によって2番目の目的である「内容の網羅性」が実現したわけです。
日本史において網羅性は重要であると考えます。
日本史の学習をやっていて必ず苛まれる不安は
「この参考書に載っていないものが出題されるのではないか」
「他の参考書もやらなければいけないのだろうか」
というものです。
ですから網羅性がしっかりした参考書を届けることが重要であると考えたわけです。
ただ網羅性のある参考書というとある程度ページ数が必要となってくるので、なかなか私が理想としている参考書を出版するということは難しいというのが現状です。
これは他の教科とは性格が違うかもしれません。
ある意味日本史などの地歴公民の教科特有の現象かもしれません。
ですから普段英語などの担当をやっている編集者さんの方にはなかなか理解していただけない部分なのかなと思います。
学習参考書に終わりはありません。
毎年入試問題を見ながらこの一問一答で解けるか解けないかというバックテストを行っております。
そうやって、バックテストの成果が著しく下がる前に改訂版を出版させて頂いております。
「10年近く前に出版したものがまだ増刷になっているって参考書業界はいいよね」という声をもいただきますが、売れていることにあぐらをかいてしまうと入試問題が解けないものになってしまい参考書として売れなくなってしまうと考えております。
ただこのような入試問題を分析する作業というのは膨大な時間が必要となります。
もし本書が売れていなければ、入試問題の分析などをせずに新しい本や原稿を書いていないと生活はできなくなってしまいます。
ですから本書が支持を得ているおかげで、このような一冊の本のために膨大な時間をかけて入試問題を分析するということが可能になるわけです。
このバックテストの作業が実現することにより、最後の目的である「データの有効性」が担保されるようになったわけです。
学習参考書の目標は入試問題が解けること、ただその一点であると考えています。
ですから私は類著についてはあえて見ないようにしております。
その代わり入試問題は毎日のように目にして解いております。
出版社の会議や打ち合わせに参加していると、「類著では……」という言葉がよく出てきますが、それでも私はそれらの本を見るつもりはありません。
「これを使うことによって入試問題が解けるようになること」
「受験生が求めているものを提供すること」
この2点が類著などよりもはるかに重要なファクターであると考えているからです。
これは学習参考書業界特有の傾向かもしれません。
学習参考書の目的は、入試問題が解けることと受験生が使いやすいことの2点に集約されているからです。
ですから私の学習参考書執筆の旅はまだまだ終わりそうにありません。
おそらく私の全ての本が絶版になるまで私は動き続けることになると思います。
金谷俊一郎