訪問日:2022-07-25, 26

 

 

この「加満田(かまた)」ほど多くの文人墨客に愛された宿も稀でしょう。
こちらを定宿として多くの作品を執筆した小林秀夫や水上勉を始め、林芙美子、今日出海、獅子文六、坂口安吾、大岡昇平など名立たる作家達が過去の常連客に名を連ねています。 
 
奥湯河原は藤木川の支流、アゲチ沢がその広大な庭園内を流れ、森閑な緑の山々を借景に昭和14年創業という由緒ある宿が幾多の時の流れを経てひっそりと佇んでいます。

またこちらは、私にとっても25歳(1981年)の時に生まれて初めて体験した老舗割烹旅館ということで、非常に思い出深い宿でもあります。

 

閑静な林の中にたたずむ

 

玄関

 

 

今回は14年ぶりの宿泊、しかも離れ「丹頂」の間という水上勉愛用の部屋を予約しました。
「越前竹人形」や「飢餓海峡」など多くの代表作を出筆されたという文学ファン垂涎の空間です。
前回の宿泊記事はこちら

 

風情ある通路を登って離れへ。

 

離れ入り口

 

離れへの通路

 

離れ入り口

 

離れ階段


「丹頂」の間は主室8畳・副室4.5畳・踏み込み3畳・ベッドルーム8畳・広縁・書斎・展望檜風呂を備えた贅沢なお部屋です。

 

 

湯河原名物きび餅

 

主室

 

窓から

 

屋根瓦が美しい

 

副室

 

ベッドルーム

 

広縁

 

 

書斎

 

部屋風呂

 

部屋風呂から

 

大浴場は「輝」「彩」と称される伊豆石造りの内湯二ヶ所、庭園を臨む石造りの露天風呂が二ヶ所。
露天風呂は無料貸切制で、空いていれば自由に利用できます。
泉質はカルシウム-硫酸塩泉pH7.5、42度と59度の混合泉がかけ流しで使用、終夜入浴可能です。

 

大浴場は「輝」

 

大浴場は「彩」

 

無料貸切制露天風呂。

 

露天風呂

 

 

 

館内の調度品やこちらを定宿にしていた作家たちの書画も見所です。

 

書斎

 

 

 

 

 

入浴後は庭園をそぞろ歩き。

 

 

 

 

夕食は懐石ではありませんが、相模湾の地魚や季節の野菜を中心に意匠を凝らした会席コース。
戦時中海軍の指定保養所だったという経緯から、当時軍に零戦一機を寄付したという名物女将も今は無く(平成9年没、葬儀委員長は水上勉)、二代目女将が菜園で採れ立てという野菜皿を持ってご挨拶に見えました。
食前酒からデザートまで全14品、二時間かけてゆっくりと頂きました。

 

夕食膳

 

食前酒 自家製梅酒

先付  生雲丹水晶 色紙胡麻豆腐 山葵

強肴  蓮芋ジュンサイとろみあん和え クコの実

 

前菜  白瓜雷干しバラ子和え

     鯵棒寿司 茗荷子 揚げ煮梅

     蟹砧巻黄身酢 枝豆

     尼子南蛮漬 貝割牛肉巻

 

冷酒「三千盛」(岐阜・土岐市)

 

酢の物 鰻ざく 養老酢かけ

     蛇腹胡瓜 海藻サラダ ヤングコーン

 

女将からの一品

菜園の胡瓜

 

椀     あぶり鱧 シメジ 葉茗荷子 赤梅肉

 

造り  地物白身他四種   

     花穂 妻色々

 

中皿  鮎塩焼 はじかみ 蓼酢 

     管牛蒡 沢蟹芝煮

 

煮物  白ダツ 練南瓜 

     車麩治部煮 小芋 加賀太胡瓜 人参

 

食事  栃木産コシヒカリ「とちほのか」

香の物 三種盛り

止椀  赤出汁

 

食後  杏仁豆腐 ブルーベリー

    季節の水菓子

 

 

食後は広縁の椅子で、こちらで執筆されたという私の大好きな水上勉「越前竹人形」を再読。
外はすっかり夜のとばりが降り、川音とヒグラシの声以外は何も聞こえません。

 

 

朝食は鰺の開き・大根アラ煮・烏賊刺身などを中心とした湯河原らしい献立。
山葵漬けや香の物も美味で、ついついご飯が進みました。

 

朝食膳

 

烏賊刺身・モロヘイヤとオクラ

大根アラ煮・しらすおろし

 

鯵開き・キャラ蕗

蒲鉾・わさび漬け・山芋梅酢漬け・出汁巻き玉子

 

御飯・茄子味噌汁・香の物


象徴的な古き良き日本の宿といった趣で、私にとっては理想的な宿泊施設の一つです。
しかし施設はかなり古く、料理も今どきの派手な演出はありません。
すれ違う宿泊客も年配者ばかりで、こうした宿の先行きには一抹の不安が感じられます。
幸いこちらは「文人の宿」という心強い売り物がありますが、それを除いてもこうした宿の良さを若年層にも理解していただき、末永く持続することを願ってやみません。

奥湯河原温泉「加満田」公式HP
温泉日記索引