実は3番目に多い死因は医療ミス? 良い大学病院を見抜くポイントは? 寿命を削らない医者の選び方を徹底解説
人の老い、それはすなわち医療の世話になる機会の増加を意味する。そしてその選択の仕方によって、私たちの寿命は大きく左右され、時には最悪の事態を招くことも……。ベストセラー医師・牧田善二(AGE牧田クリニック院長)が、命を削らないために「やってはいけない病院・医者の選び方」を指南。
世界に冠たる長寿大国ニッポン。しかし、現時点においても日本人はもっと長生きできるはずだと私は考えています。つまり、実は私たちは本来の寿命を削られている。それも命を救うはずの医療によって、寿命を短くさせられている可能性があるのです。
〈こう警鐘を鳴らすのは、「AGE牧田クリニック」の院長で医学博士の牧田善二氏だ。
牧田氏は、糖尿病の専門医であると同時に発行部数80万部を超える『医者が教える食事術 最強の教科書』などの著作があるベストセラーの著者としても知られる。
そんな牧田医師は、欧米への留学・医療視察、大学医学部の教授や臨床医など、これまでの自身の豊富な医療経験をもとに、目下「正しい病院・医者選びこそが寿命を延ばす」と訴えている。事実、人生100年時代、誰もが病院・医者と無縁ではいられない。
それでは早速、ベストセラー医師が説く「やってはいけない病院・医者の選び方」に耳を傾けてみよう。〉
人工透析
人工透析が避けられないケースも(他の写真を見る)
“自殺行為”
米国人の死亡原因を調べた報告によれば、第3位にランクインしているのはなんと「医療ミス」です。実に年間約25万人の方が医療ミスで亡くなっているというのです。
翻(ひるがえ)って日本はどうでしょうか。医療ミスによる死亡は極めて少ない、ということになっています。確かに公になる医療ミスはまれです。医者の技術が未熟であることは罪に問われませんから、救えるはずの命を下手な手術で救えなかったというような「隠れた医療ミス」はカウントされず、また、どの医者も死亡診断書に「医療ミス」とは書かないからです。
しかし常識的に考えて、最新の医療を求めて世界の富豪たちが集まってくる米国と、残念ながらそうなってはいない日本を比べて、日本の医療技術が優れていてミスが極端に少ないとは思えません。したがって、日本でも医療ミスによる死亡率が潜在的には米国と同程度か、それ以上である可能性も否定できないのです。
そう考えると、無自覚に病院に行き、医者の医療を受ける行為は、自ら命を縮める“自殺行為”に等しいとすらいえます。「良い病院・良い医者」を選び、「ダメな病院・ダメな医者」を避けることがいかに大事であるかが分かると思います。
例えば、私の専門である糖尿病に端を発する腎臓病は初期であれば治ります。そして、腎機能をチェックするために、私のクリニックでは尿アルブミンという数値を測る検査を行っています。
ところが、一般的な腎臓病の検査では血液中の「クレアチニン」を調べるだけのことが多い。簡単に言うと、クレアチニンが異常値になっている方はすでに腎機能がかなり低下し、人工透析が避けられないことがままあります。つまり、もはや手遅れというケースがあるのです。
そのため、いち早く腎機能の低下を調べられる尿アルブミン検査が糖尿病性腎症の早期発見には不可欠といえるわけです。クレアチニンの検査しかしてくれない病院や医者に診てもらうのは、私に言わせれば命を縮めているようなものです。
大学病院のリスク
では、どうやって病院や医者の良し悪しを見極めればいいのでしょうか。そのために大事なのは、多くの患者さんが持っている医療に関する「常識」を変えることだと思います。
例えば大学病院です。最高学府に付属する病院ですから、最先端の研究を行い、腕の良い先生が集まっているというイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。しかし、大学病院のような大きな病院のほうが、むしろ医療ミスのリスクは高いといえます。なぜなら、まず大きな病院ほど会議などの雑務が多く、時間に追われている面があるからです。
また、大学病院は多くの研修医を抱えています。研修医とは、すなわち若くて経験が乏しく、技術が未熟な医者であることを意味します。大学病院が、そうした若い研修医に経験を積ませ、一人前の医者に育てる場という側面を持っているのは事実です。とはいえ、それはあくまで「大学病院側の論理」です。「患者側の論理」からすれば、言葉は悪いですが、若い研修医の“実験台”になって命を削られては堪(たま)ったものではありません。
従って、大学病院などで治療、とりわけ手術を受けるのであれば、あなたの症状・病気の専門科において、その病院で一番の医者の手術を受けることをお勧めします。
教授の出身大学を調べる
「一番の医者」は、インターネットなどで年齢や経歴を調べれば、ある程度は把握できます。手術であれば場数を踏んでいて、かつ体力が衰えていない40~50代の医者がいいでしょう。事前に病院に連絡を入れ、その一番の医者の治療を受けられるか、受けるまでにはどれくらい待つかを聞く。仮に数カ月待ったとしても、急を要しないのであれば待つ価値があると私は思います。なにしろ、自分の命がかかっているのですから。
また、研修医の問題をおいたとしても、大学病院が「良い病院」とは必ずしも言い切れません。それを見分けるひとつの基準は、教授の出身大学を調べてみることです。A大学病院であれば、A大学医学部出身の教授が多いのは当然と思われるかもしれませんが、実は、それはその大学病院が学閥にこだわっていることを表しているともいえるのです。
かかりつけ医に関する常識
医者の腕の良さは出身大学で決まるものではありません。いわゆる一流大学ではない大学出身の医者でも、「神の手」と呼ばれるような名医は存在します。学閥優先の大学病院は、こうした名医を呼び寄せる門を自ら閉ざしてしまっている。つまり患者さんに最高・最良の医療を施す努力を放棄してしまっているも同然なのです。日本全国には約80の医学部が存在します。それだけあるのですから、学閥にこだわらなければより優秀な医者を集められる可能性が高まるのは自明の話です。
次に、かかりつけ医に関する常識です。多くの方は、風邪をひいたら診てもらう近所のお医者さんをかかりつけ医と認識しているのではないでしょうか。体調が悪くなったら何でも診察してくれる内科の先生がかかりつけ医であると。
しかし、50年前ならいざ知らず、医療技術が進歩した現在、そうした意味での「内科医」は存在しません。なぜなら、内科はさらに消化器内科、呼吸器内科、そして私の専門である糖尿病内科といった具合に細かく分かれているからです。この細分化された内科の専門医を「サブスペシャリティの専門医」と言いますが、現代の医療が求める水準においてこれら全ての内科分野の知見を専門的に身に付けている「スーパー内科医」はほとんどいません。
お腹が痛ければ消化器内科の専門医に診てもらい、咳が出るのであれば呼吸器内科の専門医の診察を受ける。これが逆であれば、適切な医療を受けられないのは誰が考えても当たり前のことだと思います。実際、私たち医者が体を壊して通院する場合、「専門外の内科医」に診てもらうことは絶対にありません。
「質問する力」の一方で…
ですから、なんでも診てくれるという意味での内科のかかりつけ医には、あまり意味がありません。かかりつけ医を持つのであれば、お腹が痛くなった時のための「消化器内科のかかりつけ医」、咳が止まらなくなった時のための「呼吸器内科のかかりつけ医」といった具合に、症状別の「かかりつけ専門医」を見つけておくべきでしょう。ホームページなどをチェックして、院長などが「○○専門医」と掲げているところを選ぶことをお勧めします。「とりあえず近所の内科の先生に診てもらう」のは避けるべきです。
ひとりの医者がいくつもの専門分野を看板やホームページに掲げているところもお勧めできません。その医者は、逆に本当の得意分野がないということを宣言しているに等しいからです。
そうやって「かかりつけ専門医」を見つけたところで、その医者が腕の良い医者かどうかはまた別問題です。それを見抜くには、繰り返しになりますが、ホームページやインターネットの口コミサイト等で医者の経歴や評判などを自分なりに調べることが大事です。その上で、診察を受ける場面で直接その医者の良し悪しを見分ける方法もあります。とてもシンプルですが、それは「質問すること」です。
例えば、「私の病気について最新の医療情報はありますか?」と尋ねてみる。良い医者であれば、「新しい治療法が見つかって現在治験中です」とか、「最近いい薬ができました」などと答えてくれるはずです。これは、絶えず医療について勉強を続けている医者であることの証です。
逆に、「さあ、どうでしょうかねえ」といった具合に曖昧な答えしかしない医者は、医療に対しても患者に対しても不誠実で、良い医者とはいえません。また、経験が浅い医者ほど、患者さんには理解不能な医療専門用語を連発し、煙に巻こうとする傾向があります。これも、患者さんに寄り添っていない医者といえるでしょう。
求められる「患者力」
大学病院などの大きな病院に紹介状を書いてもらう時も、医者の良し悪しを判別する一つの機会です。患者さんが自分なりに調べ、本当はB大学病院の名医に診てもらいたいと思っているのに、その医者はC大学病院にしか紹介状を書こうとしない。その理由は、やはり自分がC大学出身だったり、あるいは大学病院と何らかの利害関係があったりすることが少なくありません。
しかし、本当に患者さんのことを第一に思い、その方の病状にあった病院に紹介状を書くことを考えるのであれば、出身大学や利害関係は気にしないはずです。本来、どこの病院で診療してもらうかの最終決定権は患者さんにあるのですから、患者さんが望む病院を、合理的理由もなくかたくなに拒んで紹介状を書こうとしない医者は、患者さん本位の医者ではないということになります。
このように患者さんにも、正しくない医療で命を削らないために医者に質問をする、自分でリサーチして名医を見つけるといった「患者力」が求められます。この患者力の中には、「質問する力」の一方で「余計なことは言わない力」も含まれます。適切な質問はどんどんするべきなのですが、無駄な説明は医者を疲弊させるだけだからです。
患者を差別してはいけないが…
医者が知りたいのは、患者さんがどんな症状で、どのような時にその症状が起き、どういった頻度でそうなるのか、薬を飲んでいるか、ほかの病院にかかっていないか、既往症はどうかといった基本的な情報です。
ところが患者さんの中には、昔診てもらった先生はこんな先生でイヤだったとか、10年前に別の病気で手術を受けた時は別の先生でこれまた不愉快だった……といった具合に、医者が知りたい情報とは別の話を延々と続ける方がいます。
あるいは、辛くてしんどいのは分かるのですが、医者の知りたいことにはあまり答えず、「痛い」「早く治して」と感情的なことばかりを訴える。
こうしたことだけを言われると、医者も人間ですから正直に言って面倒くさくなる。患者さんを差別してはいけないのはもちろんですが、「無駄話」を続ける患者さんはどうしたって積極的には関わりたくなくなるのが医者の“本音”です。それは結局、親身な治療の妨げとなり、患者さんにとっての不利益につながります。したがって、必要なことを伝え、聞くべきことを聞いたら、あとは医者の質問に的確に答えるのが「患者力」を備えた患者さんであると私は考えます。
それほど賢くなくても医者になれる
ここまで、正しく、そして賢く医療を受けるために、「大学病院はすなわち良い病院である」、あるいは「何でも診てくれるかかりつけ医」といったさまざまな医療に関する常識を変える必要性を説いてきましたが、それら全ての前提となるのは、患者さんの意識の中で次の常識を捨てることです。
医者は偉い。
日本には「お医者様」という言葉があります。命を救ってくれる医者は自分たちより賢く、そして偉い、文字通りのお医者様なのだからその指示には従うべきである。そう思い込んでいる患者さんも少なくないと思います。ですから、お医者様に「最新の医療情報はありますか?」と尋ねたり、「違う大学病院に紹介状を書いてください」などと素人が口を出してはいけないと考え、仮に気になったり引っかかることがあったとしても、お医者様から言われた通りにする。
しかし、この常識は完全に誤っています。2020年時点で日本には34万人の医者が存在します。全員医学部を出ているわけですが、みんなが賢いわけではない。東大などの一部を除き、浪人をして勉強を重ねればそれほど賢くなくても医学部に入ることはできるのです。現に私自身が2浪して医学部に入っています。
高齢者イメージ
「健康」か「病気」かの大事な“岐路”(他の写真を見る)
「医者は偉くなどない」
また、仮にその医者が賢かったとしても、それはその人が偉いことを意味するわけでも何でもない。ですから、遠慮することなどなく、聞きたいことがあれば質問し、説明に納得できなければ他の病院や医者に変える。これは患者さんに与えられた当然の権利です。その権利を行使しない手はありません。良い医者を選ぶか否かで、あなたの余命は延びもし、縮みもするのです。
こと医療を受ける、つまり自分の命を守るためには、日本人の美徳である謙虚さや謙譲の精神は邪魔になります。自分が若い研修医の手術を拒んだら、研修医はいつまでも成長できないのではないか……。そんなことを患者さんが気にする必要はありません。それは大学病院が考えるべきことなのです。
医療を受けるにあたって、患者さんはとにかく自分の命を守ることを最優先する。そのために、医者に遠慮している暇はないのです。
なにより、医者は偉くなどないのですから。
牧田善二(まきたぜんじ)
AGE牧田クリニック院長。1951年生まれ。糖尿病専門医。医学博士。北海道大学医学部卒業。ニューヨークのロックフェラー大学医生化学講座など、米国で5年間研究を行う。北海道大学医学部講師、久留米大学医学部教授等を経て、2003年に糖尿病などを治療する「AGE牧田クリニック」を開業。『医療に殺されない 病院・医者の正しい選び方』『医者が教える食事術 最強の教科書』『糖質中毒』など著書多数。
週刊新潮 2023年7月27日号掲載
特別読物「ベストセラー医師が解説 『寿命』を削らないための『病院』『医者』の選び方」より