だれかに教えたいこと

2023/07/20 水曜日

これはノンフィクションです。

 

高速道路の彷徨

 

自殺活動の初期。

僕は僕の置かれている境遇を、

本当に理解していなかった。

 

僕は想像もつかない借金を抱え、

それらは不健全な経理処理の上に成り立ち、

破産すら出来ない状況だった。

僕の夢の中には、毎日あの国の刑務所が出てきた。

僕の夢の中には、毎日あの国の囚人と一緒にいる上半身裸の僕が出てきた。

それはエピキュリアンの僕には考えられないことだった。

考えられない事ほど人は何度と無く反芻してしまうと言う。

 

それでも僕は自宅で自殺を決行し血だらけになり、

生まれて最初の自殺に見事に失敗した。

「人間はそう簡単に自分を殺せない。」

その国の先代の王様の名前を冠した海軍病院で、

軍人に「もう死にません」と誓わされた時、

僕には太宰治さんの顔が浮かんだ。

「あの偉大な太宰治さんより今の僕は更に状況が悪い!」

実際には、事態は更に僕の想像を超えて居たのだが。

 

負債主から逃れるため、

モと隠れたアパートの狭いベランダで、

悪質な金型会社の体の小さな社長に電話で突然、

借金をお願いした僕は完全に狂っていた。

 

僕にとって今残されて居るものは、

この体と携帯と白いカムリとモだった。

未だ赤ん坊の雲雀はモの母が田舎に連れて行った。

 

それからは僕の、職探しと名乗る自殺活動が再び始まった。

毎日朝からどこへ行くとも知らず車を出し、

毎日何の成果も無くアパートの駐車場で過ごし、

毎日夕方になるとモを日本人向けカラオケバーの裏口に送り、

たった1人のアパートで、翌日が再び来ない事を祈りながら、

1時間後に目覚まし⏰を合わせ眠った。

 

毎日、毎日、

あの街の東西南北を隅から隅まで、

あの街の郊外を東西南北片道200キロ以上、

ただただ走り続けた。

お金がないのに燃料が持ったのは、

カムリがハイブリッドカーであると言う、

皮肉だった。

 

そうしている間に僕の心の中で、

切実な脅迫心と焦りが僕を責め立てた。

「そうだ、その内状況が切迫すれば、

このカムリも手元を離れる。

そうなる前に今度こそ本当に死んでしまおう」

と!更に、更にだ。本当に、本当にだ。

 

高速道路の上は死に場所として相応しかった。

僕がここに駐在した頃には無かった10階建のビル位の高さの、

高速道路が街を貫き整備されていた。

その高速上を皆が時速140kmで走り抜け、

毎日何人かが事故で死に急いで逝った。

誰も高速道路上で🛣他人に興味を持つ人はいなかった。

ここは急ぎ逝く為の道だった。

 

0か100だった。

或いは、渋滞で止まって居ても、

同じことかも知れなかった。

 

人は死ぬ気になればゴム紐でも死ねると言う。

高速道路を彷徨した3カ月間、

死ぬるチャンスはいくらでもあった。

白バイや警察は示し合わした様に僕に無関心を装ったし、

同じ料金所を何度も何度も往復しても誰も怪しまず、

何度か休息所に止めて高架の下を覗いても咎める人も無く、

自殺するチャンスは無数だった。

後は僕の勇気と覚悟の問題だった。

 

結局、僕の140kmのカムリはこの国にいる限り、

決して僕を離れる事は無かった。

某国最期の日、人々の歓声と誰のか知らない半旗に見送られるまでは。

モも僕がこの国を離れるまで、僕を離れる事は無かった。

そして携帯とこの体はこうして今も一緒だ。

 

問題は自分の覚悟と勇気があったかであり、

問題は問題が自分の考えて居たとモノより更に大きいと言う事だった。

これだけの大病のなか、僕はまた生き残ってしまった。

 

そして僕を放置した母は僕に再会し涙も見せずに言った。

「兎に角、生きてて良かった。」

 

合掌

 

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