土曜日 尊敬と謝罪イラチと言う欲望②

 

王様の不敬罪も何とも思わない人。それが私の持つSさんの印象だ。仕事を一緒にやっていて、あの性格だからみんなに怖れられていた。でも、会社のプロジェクトを次々と成功させている関係上、誰も何も言えない。特に僕が一緒にさせてもらったプロジェクトは、今まで会社のやっていた事と明らかに畑違いで、が為に外注していた仕事。それをこの人は物にしてしまった。直情径行、思い着いたら、どこにでも姿を現し、相手をその魅力で引き付け、駄目だと思ったら人の部下だろうがお構いなしのゴミ扱い。この人に魅入られ、この人から仕事をもらったら最後。何としてもこの人に迷惑をかけてはならんとなる。

 

あれは、明らかにやらせではなかった。ああいう人だった。どこからが、真実で、どこまでがヤラセか分からないが、サラリーマンの枠を超えた人だったのだ。勿論、この人の作ったモチベーションが、僕をあの鉄鋼問屋から独立しようと言う流れになるのだから、王様の求めた仕事を確実にこなしたわけであるから、それは他人事のように関心したい。会社にしても、任せる事が出来るのはこの人だけだったに違いない。発展途上国の誇りを守ると言う、大きなモチベーションがあるので、会社としてはこの詐欺のような方便嘘つき仕事を成功させたい。S、頼む。と頼まれれば、Sさんが断らないわけがない。

 

仕事の内容に触れるのはまずいので、僕は鉄鋼問屋にいる間中、後半の5年くらいSさんとの付き合いがあった。Sさんのお陰で仕事もふえ、会社から嘘の出世、副工場のような役職にも着いた。多分あの頃は、2人の娘も生まれ、僕にとっては良い時代だったのだろう。あの国の人々には臥薪嘗胆の日々だったに違いない。

 

あの人には右手と左手と呼ばれる人がいて、仮にGさんとIさんとよばわしてもらう。Gさんは、非常に礼儀正しい人で、このフィクションプロジェクトの後半で、よくわからない行動をするのだが、トータルで、未だにこの人を憎む事が出来ない。この人は、Sさんのアンチテーゼ、Sさんが暴れれば、彼が抑えると言うバランスを取る仕事に長けており、この人が居なければ上手くいかない事が沢山あった。特にローカルスタッフの扱いは、実に不思議な彼なりのマジックを持っていた。

 

一方、Iさんは品質管理の左手で、この手の問題があれば、(と言うかこの手の問題ばっかりだったような気がするが)どちらかと言うと相手をやっつける方向で問題を解決した。知らないと言いながら相手に真相を白状させるプロだった。ボロとも言うのだろうか?

 

この2人無しにSさんは語れないし、Sさん無しにこの2人は語れなかった。そして、この後この2人が向かって行く方法それこそが、僕の終点であったと気づかされる設定となっている。

 

話を戻すと副工場🏭にまでなった僕は、工場の営業らしき仕事をやり、Sさんとの付き合いは、非常に重要なものとなった。この人は家が大阪(というか京都)で、前回も述べたが実家は五島列島であった。僕はこの頃から少し人生観が変わり出す。自分を必要としている人は、徹底的に対応しなければいけないと言う人生観だ。とにかく対応し対応し、相手がそれでも不満なら更に対応して、それで駄目なら更に、と言う考え方だ。最初のうち、Sさんに散々怒られたが、この人はこちらが腰を引くほど、背中を向けるほど、追いかけて来る。そして、付き合い出して1年程、ちょっとした言動から彼が僕を信頼しているらしき事を知った。それは、僕にとって初めての仕事をする喜びと言う奴だ。そんなものは、下らない人に与えられるものではない。如何なる脚本家も、如何なるディレクターも、王様も指示して出来るものではない。

 

これが僕が、Sさんだけは本当に死んだのだと考える理由である。

欲しくても手に入れられないものを与えられる人だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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