「軽いめまい」金井美恵子著より。

べつにこのフレーズの内容がどうのこうのというよりむしろ、センテンスの長さに驚き、ちょと気になったのだ。文にはふうつ句読点があるが、この文章には読点「、」は頻繁にあるものの句点「。」はなかなか出てこない。

区切りが長いため読んでいるほうが“軽いめまい”を起こしそうな気もしてくる。読んでいてもどかしくなるほど、しかし内容は理解できる。タイトルにあげた部分からはじまるワンセンテンスは実に長い。単行本の199ページから最後の205ページまで7ページにわたっていた。

最後は「少し吐き気がして、電車の振動とは別の軽いめまいのように、目の前が微かに揺れる。」となっている。そのほかのページも一文が4,5ページに及んでいる。かつて、分かり易く読みやすい文章はセンテンスが適当な長さで区切られているものと教わった覚えがある。

しかし、文芸作品ともなると文体やリズムがその作家の特徴ともなっていることに気づく。長いセンテンスの中には会話の部分まで流れるように収まっていた。たとえば「・・・しかたなくつきあったんだけど、サテンで、あたしのこと好きか、なんて何度も訊くから、そんなこと、関係ねえーだろーって黙ってたら、・・・」という具合に。

ただし、長かろうが短かろうが形だけを素人がまねてもダメな文章になってしまうに違いない。内容がしっかりと伝わり、長年の修練の後に完成、到達した作品だけが世間的評価を受けるのだろう・・・な。