南半球で一番大きいイベント、アデレードフリンジフェスティバルでは、コメディーだけでなく、演劇、音楽、キャバレー、サーカスといろんなジャンルのショーが世界中からやってきて開催される。この期間、小さくて綺麗なアデレードの街中が賑わい、盛り上がる。

私は初めて、今回ここで9日間独演会を行い、生まれて初めて、有名メディアから、

5星のレビューもいただき、毎晩爆笑の毎日でお客様からも素晴らしいコメントをいただき、いろんな意味で大成功で大変意義あるツアーであった。だが、今だから言えるが実は最悪の状況から始まった、いやそのおかげで成功したと言っても過言ではない。

私の会場は、今年からフリンジのメイン会場の一つに選ばれた、「ナショナルワインセンター」という、ボタニックガーデンのそばにある新しくて綺麗な建物。

ワイン?ボタニックガーデン?まるで私のために作られたような会場!?いつもながら全く根拠なくポジティブ。

この会場でショーをするには、選ばれなければならず、誰でも使用できるわけではない。

(ちょっと鼻高すぎ?)

 

公演1日前にアデレード入りしたが、前日は、最終リハーサルと、パッキングで2時間しか睡眠がとれず、目覚めたらアデレード空港。ここはどこ?私は誰?の境地で4つのスーツケースを抱えてタクシー乗り場へ。4つになったのも大変な努力と、諦めでだ。元は6つのスーツケース。つくづく、次回のショーは道具なし!人形数体だけにするぞ!と誓った。

私のプロジューサーが推薦してくれた、アデレードで一番安全で、清潔で、いい人たちばかりのホテルに到着した。

外見は、ビクトリア調の豪邸のようでワクワクし疲れも吹き飛んだ。チェックインして鍵をもらった。スタッフの初老の女性が私のスーツケースを2つ抱えて部屋まで案内してくれた。

「キッチンは、ここよ。みんなできれいに使ってね。」(あれ?共有なんだ。自分の部屋にあるかと思ったけど、まあいいか。ここで世界中のアーティストたちと交流できるいい機会だ!)「冷蔵庫に食品を入れてても誰も盗らないから、安全だから使ってね。」と。

 

一番明るくて静かな部屋をリクエストしておいた。

「さあ、のぼるわよ!」エレベーターはないんだ。彼女は軽々と一番重たいスーツケースを持ち上げ、「なんだ、軽いじゃない」と言ってスタスタとたくましく登って行った。「私自分でやりますから、大丈夫ですよ。」と言っても聞かないで、どんどん進んでいく。

最上階が私の部屋。最上階にはあっという間に着いた。2階だった。

久しぶりに見たトタン板でできたドアを開けると、全身の力が抜けてカバンが手からすり落ちた。真昼間で晴天、建物の前には何も遮るものがないのに、暗い!夜みたいに暗い!

バルコニーもあるのに!よく見ると、バルコニーにレンガが格子状に施されていて、ほんのすこしの隙間から光が入ってくるだけであった。これは何かの間違いに違いない。「一番明るい部屋をお願いしておいたんだけど。」「ここが一番明るい部屋よ。」屈託のない笑顔で彼女は答えた。「なぜ、レンガであんな風にしてるの?こんなの初めて見たわ。」

「それは、安全のためよ。」安全というのは、外から誰も侵入されないように、覗かれないように、また飛び降り自殺ができないようにという両方の面で?。。。ここは2階なんですけど。アデレードはこの時期どこも宿泊施設は満室なので、他に移るのは今更無理だ。もうここで覚悟を決めて泊まるしかない。確かに、部屋は古いが、シーツは5つ星ホテル並みに質が良く、清潔であった。部屋もトイレも清潔。嫌な臭いもしない。これが一番だ!

部屋は暗いし、電気は付いているのかいないのか分からない程暗い蛍光灯だが、これから忙しいし、帰って寝るだけなんだから、ずっと目を閉じていればわからないわ!女性一人なんだから、安全第一よ!と、自分に言い聞かせ、すぐに、会場の下見と、オーガニック野菜、ココナツミルク、ココア、はちみつなど健康な食材の買い出しに出かけた。

打ち上げでは、全く食べるものを気にしないが、ツアー中一人の時はなるべく食べるものに気をつけている。

 

会場へは、綺麗な公園を抜けて徒歩10分で到着。何て素敵な通勤路だろう!ラッキー!元気になってきた。会場も綺麗で、なかなかいい感じ。

リハは明日だから今晩は早く帰って、ホテルのキッチンで夕飯を作って、アーティストたちと交流しながら夕食をとろう!と家路を急いだ。と言っても、結局ショーを一つ観てから帰ったので、夜10時頃になった。それでも、芸人は夜型が多いから早い方ね。とホテルに一歩入ると、真っ暗で、シーンと静まり返っていた。キッチンには誰もいない。

翌朝初めて、ホテルで人にあった。ここに宿泊している人は70〜80代の女性。その他は隣に癌センターがあるのでそこに通う癌患者さんたち。だからみんな早寝早起きで、ほとんど会うことがなかった。

確かにここは、アデレード1静かで安全なホテルだ!

 

その晩、さっさと夕食を済ませ、部屋に戻ってすぐに目をつむり、ぐっすりと眠れた。

 

翌朝「あれ?ここはどこ?朝?夜?」そうか。と格子型に積まれたレンガの間から差し込む少しの光を眺め、現実に戻った。

さあ、今日から9日間独演会スタート!よーし!気分を上げていくぞー!と気合を入れて起き上がった。

 

朝の習慣、レモン湯を飲んで、メールチェック。

すると、なんとびっくり、最悪のニュースが!!!

プラス、最高に楽しみにしていたテレビの仕事がどんでん返しに!!!

「なんで、こんな時に限ってこんな最悪のニュースが飛び込んで来るんだろう。」

格子型に積まれたレンガを見て、ここは牢獄なのか?と落ち込んだ。

しばらく、何も手につかずボーとしてしまった。

ああ、飛びおり自殺したい気分であった。あっ!できへん!そうか、そのためか。(笑)

あかん!今日が初日、気分を変えていかな!

まずは、健康な美味しいものを食べて元気を出そう!

と、キッチンへ行った。冷蔵庫を開けると。。。。あれ?昨日買った1週間分の食材が全部なくなっている!

受付に聞いたら、「今朝はちょうど冷蔵庫掃除の日だったのよ。掃除した人はずっとここにあると思って勘違いして捨てたのかもしれないわ。ごめんなさい。」と。

ああ、なんてついていないのだ!

でも、今日は初日、落ち込んでいる場合じゃない!

この最悪の状況、がっかりしたというか、どこにもぶつけることのできない怒りというか

この強烈なネガティブなエネルギーを、ポジティブな炎のようなエネルギーに変えたらどうやろう?

イメージトレーニングをしながら、公園をジョギングして気分転換した。

なんだか、変にテンションが高くなった!これくらい高くていいのだ!

 

そのお陰か、第1日目独演会、大成功!

お客さんは、90%がオーストラリア人で、10%が日本人(ありがたい)

子供から若者、お年寄りまでバラバラの客層で、何が起こるのかあまり想像できないまま来てくださった感じであったが、最後にはすごく喜んで帰っていただけた。

 

息つく間もなく、インターナショナル女性デー!女性コメディアンスペシャルのイベントで、アデレードで一番大きなコメディークラブにゲスト出演。

少し間があったので、ホテルに帰って食べてから行こうか?いやホテルには帰りたくない。会場に残ってワインと食事をとりながら、時間まで台本の調整をすることにした。

その晩のコメディークラブの客さんは、私の会のお客さんと違って、若い男性がほとんど。しかも皆酔っ払い。でも、大大爆笑に終わり、オーナーから次また出演してください、とオッファーが来た。

このイヴェントが終わったのは夜中1時であったが、姉御肌の女性コメディアンが「まだまだレイトナイトコメディーへ行くわよ!」と皆を誘った。「笑子も来るのよ!」「でも、私そんな急に出演できるのかしら?」「違うやん、あんたが出るんやなくて、観に行くの!他のコメディアンたちと交流することはすごく大事なんよ!この業界では!」ともちろん英語であったが、彼女の雰囲気は面倒見のいい大阪のおばちゃんであった。そして終わりかけのショーを観て、その後、トップクラスのコメディアンしか入れない楽屋に彼女たちと一緒に入れてもらい、いろんなコメディアンたちとお話しした。

ホテルが楽しくて居心地がよければ、自分のショーが終わったらすぐに戻りたくなるところだが、これは神様が「外に出て、なるべく人と会いなさい!たくさんのショーを見て刺激を受けなさい!」とわざわざ設定してくれたかのようであった。それから、毎晩自分のショーの後、3〜4つのショーを観て、芸人たちと飲みながら芸談し、毎晩朝1時頃にホテルに戻ることとなった。 

フリンジで出会った面白い芸人たちの話は、今後するとして。。。

今だから冷静にみれるが、私はなぜかいつもなにか始める時に必ずハプニングが起きる。

初めて、ラジオ大阪でレギュラー番組を持った時、私の相手役の政治家さん(メインキャスター)が収録初日急遽政治的理由で出演できなくなり、結局私一人で番組を担当することとなった。その他にも数え切れないほど似たようなことがある。

 

この続きは、また次回。