シドニー国際交流基金の方から、トンガでの公演のお仕事の話を頂いたのは5ヶ月ほど前。トンガ?どこにあるのか?どんな人たちが住んでいるのか?私にとって未知の国であった。劇場もコメディークラブもない国の人たちをどうやって笑わせようか?

2日間で4公演というぎっちり詰まったスケジュール。これは芸人にとってありがたい。

ビーチでのんびりするより、現地の人たちとどれだけ交流し、できるだけたくさんの公演をさせていただくのが私の使命。そして元気の源となる。

公演は、トンガの高校2校、一般公演(ファミリー向け)、大使公邸でのトンガ首相、官僚の方々対象と4公演で、どの公演も大爆笑で大変喜んでいただいた!

トンガ1日目

昨夜メルボルンからニュージーランドのオークランドを経由してついたばかりでまだ全然トンガを見ていないのに、いきなり現地の高校での学校公演。でも、優しい大使館の文化広報の栃原さんが色々とトンガについて話してくださったので、安心して公演に臨むことができた。最初の公演は、Tailulu Collegeという学校で、日本で言えば中高一貫の学校である。その全校生1000人が対象だ。

会場は、素晴らしい木で出来た建築の大ホールで、エコーがすごい。ここで歌うと誰も上手くきこえるぞ、というほど自然のエコーがきいている。これは、かなりゆっくり喋らないといけない。しかも大ホールで1000人対象なので、かなりオーバーアクションでいかなければ。まずは、落語紹介。初めからすごい爆笑である。こんなところでも笑うの?というくらい、違うツボでも笑ってくれる。とにかく笑い声が大きく、一つ一つのギャグ全てに爆笑してくれるので笑い終わるまで待たないと、私の声が聞こえない。この笑い待ちで、時間がかなり伸びてしまったためネタをいくつか省くことにした。

落語の説明、落語までは大爆笑で、最後の腹話術落語の反応が思ったのと違いびっくりした。腹話術というものを今まで見たことがないのだ。始まった途端、皆大きな瞳をもっと大きく見開き、口を開けて、不思議そうに私を凝視していた。笑うところで笑ってくれたが、どちらかといえば驚きの方が勝っていたようだ。最後に学校の先生に腹話術のマスクをつけて、芸者の格好をして踊らせるネタでは、生徒さんもキャーキャー言って飛び上がって喜んでくれた。先生もなんとノリがいいこと!

一回目の公演がうまくいって、少しほっとして宿舎に戻る。

オーバーアクションで、体全体で落語をしたため、汗だくになったので、夜の公演までに

シャワーを浴びて、プールで一泳ぎしてリフレッシュした。

泊まったホテルは、昔皇太子様ご夫妻が宿泊されたというトンガ一のホテルで、スタッフの皆さんとっても優しく、落ち着いたいいホテルであった。

さあ、夜は大使公邸での官僚関係の方々を対象とした公演。なんとトンガの首相も来られるというではないか!先ほどの学校公演とはまったく違う。海沿いにある大きな芝生の庭つきの落ち着いた雰囲気の大使公邸の一部屋に金屏風を置いてくださり、高座を作って、30名対象の公演。お客さんはほとんど男性。女性客が一番よく笑ってくださるので、男性客が多い時はいつも少し重たかったりする。今日もかなり堅い雰囲気だ。だってすごく偉い方々ばかり。この雰囲気を打ち破らなければ。石井大使はとてもユーモアのある方でお笑いの好きな方だったので、大使のスピーチでかなり雰囲気は柔らいだ。

大使からのご紹介をいただき、高座へあがると、目の前にトンガの首相が座られている。

怒ってはるのか?とても威厳のある顔をされていて、笑ってくださるか心配しかけたが、いつもどおりに肩の力を抜いてやることにした。部屋の大きさも落語にぴったりで細かい仕草までよく見えるので繊細なジョークも伝わる。

まずは玉すだれで、トンガと日本の旗を作り友好を記念した花火をするとかなり盛り上がり、氷が溶けた。そして、落語紹介、小噺、落語、腹話術落語、腹話術マスクと、ほとんど男性ばかりなのに大変よく笑っていただいた。寿司マスターには、ここ現地でも有名な「上を向いて歩こう」を日本語、英語、トンガ語で歌わせて盛り上がった。

後から大使館の方に聞くと「今まで首相が微笑まれた姿も見たことがないのに、笑子さんのショーを見て笑ってらっしゃった!」と。しかも、公演の後の会食の席では、首相といろんな珍しいお話を聞かせていただく機会をいただき、その時に首相がさりげなく「ハロー」と腹話術を私に向かってされた。私は目を疑い、もしかして今腹話術をされましたか?とお聞きすると、もう一度「ハロー」と腹話術をにっこり笑ってしてくださった。

これには、大使も感激されて皆で笑って盛り上がった。

後日、首相の秘書の方から「笑子さんの落語を首相は大変楽しまれた。」とお礼状が届いたそうだ。ああ、なんて光栄なこと!大使館の皆さんのご援助に心から感謝の気持ちでいっぱいだ。本当に笑いの力ってすごいな〜。大使もスピーチでおっしゃっておられたが、笑いは世界の共通語。人間関係の潤滑油となるのだ。

トンガ2日目

今日は、トンガで一番賢い高校、Tonga High Schoolでの公演。

会場は屋根はあるものの壁はなく風通しの良い、いかにも南国風の情緒あるホール。

まだ開演まで一時間もあるというのに、すでに1000人ほどの生徒さんがびっちりと座っている。女の子がホールの屋根のあるところに座り、男子生徒は皆屋根のない太陽照りつける外に座っている。全校生が入りきれないのと、トンガでは、男性は女性を守るという教えがあるから、女性を大切にするため女子生徒は皆屋根付きの席。素晴らしい!!

ここでも、昨日と同じように、ゆっくりオーバークションでショーをして、また笑い待ちをいっぱいするほど爆笑となった。男子生徒に小噺をしてもらったが、彼は僕の作った落語をやりたい!とトンガ語で短い落語を始めた。これが大爆笑!すごい吸収力、想像力である。

今日は、腹話術落語を寿司マスターではなく、大きい会場でも映える初めて腹話術を見る人にもわかりやすい人形、忍者けんちゃんにして大爆笑となった。「上を向いて歩こう」を歌わせようと準備していたが、急遽音響さんに歌を飛ばして次のネタに行くようにお願いした。なぜか直感で今日はこの歌はやめておこうと思ったからだ。そして、最後の腹話術マスクでは、男子生徒に出てきてもらったが、びっくりするほど日本舞踊のような踊りがうまく、これまた最高に盛り上がった。

私の公演の後は、お礼にとトンガハイスクールの生徒さんたちが、歌と踊りのプレゼントをしてくれた。まずは女子生徒からの歌のプレゼント。歌はなんと「上を向いて歩こう」

一生懸命日本語を練習して日本語でアカペラで綺麗に歌ってくれたのには感動した。

私の直感は当たっていた。あの時直感を聞いてよかった。もしあのまま私がカラオケ付きで「上を向いて歩こう」を歌っていたら、せっかく彼女が歌ってくれるのに、盛り下がってしまったではないか。きっとトンガの土地の神様がそっと私に教えてくれたのに違いない。

そのあとは、男子生徒たちによる踊り。

これが、コントを見ているようであった。ちゃんと司会者みたいなリーダーがいて、ボケる役の子がいて、「なんでやねん!」みたいにどついているのだ。トンガ人が笑い好きというのがよくわかった。

次は女子生徒による踊り。体中にオイルが塗ってある。なぜか?と聞くとここでは、踊りの最中にチップを体に貼る習慣があるのだそうだ。踊りの途中で邪魔ではないか?と聞いたが、途中でチップをあげる方がいいということで、初めてチップを貼ってきた。

 

最後の公演は、宿泊先のホテルでの一般公開公演。

こちらは急遽決まったので何人集まるか?謎であった。ところが、入りきれないほどの満員となり立ち見まで出てしまった。

トンガ人がほとんどで、その他にも白人の観光客、現地に住む日本人の方、海外青年協力隊で働く日本人の方まで、赤ちゃんからお年寄りまで皆さん全員に笑っていただくことができた!赤ちゃんが3人くらいいたが、公演中は誰一人として泣かなかった。

とにかく大盛況で終わった最後のショーでは、ホテルのジェネラルマネージャーにもまた来てくれ!他の島にも同じ系列のホテルがあるから来て公演してくれ!と言っていただいた。トンガの方には、絶対また来てください!と言っていただき、名残惜しく翌日トンガを去った。

最終日フライト前に少し海で泳ぐ予定であったが、4公演を無事に終えてホッとしたのか、体調が悪くなりホテルでギリギリまで寝ることになってしまった。

トンガは世界で唯一鯨と泳げるスポットがある。

次回のためにトンガの海は楽しみにおいておこう。

トンガという日本からこんなに離れた小さな島国で、日本との友好関係がこんなに強くあるだなんて、本当に感動した。また、トンガの日本大使館の皆さんの温かいおもてなしに、この仕事を紹介してくださったシドニー国際交流基金さんに、心から感謝の気持ちでいっぱいだ。ああ、なんて幸せな仕事をさせてもらってるんだ。