ティモシー・ブルック「セルデンの中国地図」 | 洋楽と脳の不思議ワールド

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オクスフォード大学ボドリアン図書館に眠る400年ちょっと前、明の時代に描かれた中国の古地図をめぐるミステリー解読。

知的好奇心を刺激されて、すこぶる面白い本だ。

地図を1659年に図書館に寄贈した17世紀の法学者セルデンにちなんで「セルデンの中国地図」と呼ばれている。

この地図の何が興味深いかというと、陸地は付け足しで、海を中心に描いている点だ。

明の時代、そしてヨーロッパ人が登場してくる17世紀初めのアジアの海洋交易路を描いた地図なのだ。



中国史が専門の著者ティモシー・ブルックが紐解くのは、ひとつは地図の読み解き、もうひとつは地図と交差するこの時代。

舞台となる時代は徳川幕府が成立し、明王朝が滅亡する前、英国ではシェイクスピアの時代ということになる。

何か所かに日本と三浦按針ことウィリアム・アダムズも登場してくる。

鎖国前の日本(平戸)に英国東インド会社が商館を構え、三浦按針が英国船に乗り込んで東南アジア方面に交易に出かけたなんて、初めて知った。


著者は地図製作はおそらく1607年と推定しているが、恐ろしく正確な地図なのだ。

1m×1・6mの大きな地図。

制作者は中国人だが、作者名は永遠に謎。

類似の地図は、世界中どこを探してもないという。

と言うのも、このような地図は当時の商人たちにとって門外不出の最高機密だったので、歴史の中に埋もれてしまったからだ。


明代後半の中国は一種の鎖国状態だが、商人たちは国家の思惑を超えて自由に海外交易を行っていたのだ。

その貿易港のひとつが泉州で、泉州から延びていく線が船舶路を表している。(3番目の写真を参照)

羅針盤は中国人の発明なので、羅針盤の示す進路も書き込まれているそうだが、この個所になると複雑で、ボクにはその内容がよく分からなかった。

地図としての特徴も色々あるのだけど、長々しくなるので割愛。

興味のある方は是非お読みください。




地図の中心を占める海域は、昨今話題の海域。

世界中で愛国心やら何やらが大流行りの時代なので、著者は、この古地図をもって国家主義者たちの屁理屈の根拠にしても無駄と釘を刺しているのが痛快。


著者:ティモシー・ブルック

翻訳:藤井美佐子

太田出版、2015年4月刊。

定価2800円+税










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