作次郎 2 |  月は欠けてるほうが美しい

 月は欠けてるほうが美しい

怪談・幽霊・猟奇・呪い・魔界・妖怪・精霊などを書いております。

マムシと聞いた浩太はあぜ道から転げ落ちそうになる。
祖父から常々マムシは危険だと言い聞かされていたからだ。
「そ、それ・・・食べるの ? 」、浩太は後ろ手を付きながら作次郎に尋ねた。
彼はそれには答えず、「これ爺さんに渡して。」、と竹皮の包みを差し出した。
よく見ると作次郎は左手に小ぶりなスイカを抱えている。
浩太が右手で皮包みを受け取ると、「マムシは足で頭を踏みつけると大人しくなる。」、そう言って作次郎は犬の様な速さであぜ道から走り去って行った。
浩太はその姿をまるで鋭機を見る様な眼差しで見送った。

家に帰り祖父にその事を告げると、「ありゃ病人の為に薬屋に売るんだ。真似しちゃあかんぞ。」、と言われた。
その時、浩太の頭の中で作次郎は、イノシシやマムシを狩って人の為に役立てる英雄と化した。
次の日から、浩太は日がな畑で作次郎を待ち続ける様になった。
祖父は毎日、日焼して真っ黒になって帰ってくる浩太を見て、「やめとけ、あやつは気が向かんと来んぞ。」、とたしなめる。
2.3日したある日、浩太が祖父の家から少し離れた細い水路で小鮒をすくってと、大人の怒鳴り声が聞こえた。
「このっ ! 糞ガキめがっ !! 何度言ったら判るんだっ !! 米泥棒が !! 」
浩太が恐る恐る声のする民家の生垣を見ると作次郎が棒のような物で酷く殴られていた。
作次郎は頭を抱え身体を丸くし、情けない呻き声を上げて身を守っている。
浩太は身動きが出来ず生唾を飲んで只々見つめ続けた。

翌朝、いつもの様に畑にいくと、そこには作次郎がしゃがみこんでいた。
「われ、爺さんから餅もらって来いや。」、下を向いたままの作次郎の肩に血が滲んでいる。
浩太の頭は物事の辻つまが合わずガチガチと下顎を震わせた。
「なにしとる、わしが腹へっておれば爺さんは餅でも米でもくれよるぞ。」、作次郎は顔を上げた。
顔は酷く腫れ頬にアザができていた。
浩太がなおも硬直していると、「心配すな。わしは孫だけん大丈夫だ。」
作次郎は立ちすくんでいる浩太の尻を軽く叩いた。