キャットファイター |  月は欠けてるほうが美しい

 月は欠けてるほうが美しい

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ネズミ色のレインコートを着た初老の男は雨よけのあるバス停でポケット瓶のウィスキーを呑んでいた。
コンビニ袋には好物のスルメも入っている。
ふと、顔を上げると向かい側の歩道から女が車道を渡って男がいるバス停に歩いて来る。
「おじさん、雨ひどいよね。」、女のコートのフードがグッショリと濡れていた。
「あんた、雨はいいけど終バスはもう行っちまったよ。俺は雨を見ながら酒を呑んでるだけだ。」
女は「そう・・・」と言ってうつむいた。
男はウィスキーのフタを取り出し閉め始める。
「ねぇ、おじさん。それ少し呑ませてくれないかな ? かわりに好きなとこ触っていいから。」、女はより一層うつむいて小声で喋った。
男はジロジロと女を眺めてから、「バカ言え、触るか、そんなもん !   だけどな、俺は薦められた酒を断る奴は好かん。だから俺があんたに薦めるからコレを呑め。」、とポケット瓶を女に渡す。
女は顔を上げ、「乞食じゃないんだ・・・」、と涙声をあげた。
男は、「俺の言ってる事が判らないのか ? 俺独りで呑んでてもつまらんから相手をしろと言ってるんだ。」、とコンビニ袋から別のポケット瓶を取り出す。
女は小さくうなづいて貰ったポケット瓶をあおる。
バス停の安蛍光灯が端正だがアザやキズだらけの顔を照らし出した。
「悪い男にヤラれたのか ? 」
「ちがうよ、そんなんじゃない。相手は私と同じ「女」さ。」、女は初めて男に笑いを見せた。
「世の中、複雑だな・・・」、男は新しいポケット瓶の封を切る。
雨音に混じって女の腹が「ぐぅっー」と鳴ったのが聞こえた。
「ほら。」、男はポケットからスルメを取り出す。
「おじさん私ね、負け猫なんだ。ろくに勝った事がない、有り金叩いて自分に賭けた試合にも負けちゃったんだ。」
「おい、言ってる事が解らんが ? 」、雨音は男の声と同じ位の大きさになってきた。
「私、女同士が殴りあう賭け試合の選手なんだ。 私が弱いから・・・賭けが成立しない時は試合に出れないんだよ。だから、自分で自分に賭け金を積むんだ・・・。」
「顔のキズはそのせいか ? 」
「そうだよ、キズのせいでソープも先月クビになっちゃった。でもね、殴り合うの好きでやめられないんだよっ !! 」、女は嗚咽しながら震えていた。
雨はそれをかき消す様な勢いで降り続ける。