なぜこうなるのか:産科補償制度、「助かるのは一部」 | 天夜叉日記

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ひとりの医師として、そして父として、最愛の我がこどもたちのため、日本が、そして医療が荒廃していく記録を残しておこうと思う。

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崩壊しつづける日本の産科医療。

厚労省は一貫して“医師数の問題は、地域 や診療科によって偏りがあることだ”と主張していました。

ここに、公式に発表された産婦人科医の数があります。

厚生労働省大臣官房統計情報部医師・歯科医師・薬剤師調査によると、2004年12月31日の時点で産婦人科医数は10594人とされていました。

ところが、2006年末の時点で産婦人科医数は9592人という発表に変わりました。
http://www.asahi.com/health/news/TKY200712210385.html

おどろくべきことに、2年で約1000人、1年で約500人が産婦人科医をやめたことになります。

ところが、さらにおどろくべき事に、この数字もかなり怪しいのです。

平成17年11月22日に発表された日本産科婦人科学会による「全国周産期医療データベースに関する実態調査」によると、出産に携わる常勤医は平成16年12月現在で7985人であることが明らかになりました。
http://tyama7.blog.ocn.ne.jp/obgyn/2006/06/post_d6f6_2.html


現在ではもっと少なくなっていることは明らかで、少なく見積もって、1年で500人がやめたすると、平成20年には約6500人の産婦人科医がお産に携わっていると思われます。

平成19年6月の人口動態統計速報によると約112万人が一年間に出生しています。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/s2007/06.html

これらの数字をもとにして計算すると、産科医ひとりが1年間に取り扱うお産の数は約172人ということになります。

産科医ひとりが1年間に取り扱うお産の数の適正数は120件/年ということは広く知られていますから、日本は極めて異常に産科医が少ない事がはっきりとわかります。

ところが、厚生労働省は

2004年12月の時点で

全国的には、産婦人科医は減少しているものの、出生数あたりの産婦人科医は横ばい。また、都道府県における産婦人科医の増減には差がある。(産婦人科医とは、産科及び産婦人科を主な診療科として医療機関において従事している医師)

と述べていました。

二〇〇六年十一月に行われた参院厚生労働委員会で、「産む機械」発言の柳沢厚労相は「ただちに医師が不足して国民の健康や寿命に 影響している状況ではない」と答弁。 厚労省は一貫して“問題は、地域 や診療科によって偏りがあることだ”と主張していました。

さらに、厚生労働省官僚は、

平成19年10月5日に開かれた「2007年8月奈良県妊婦救急搬送事案調査委員会(第3回)」

「まだまだ(産科医の)活用の余地があり、最低レベルでないと言うこと。一人で300件の分娩を扱う例もある」

という世界の常識からは考えられない有名なトンでも発言を行っています。


現在の産科崩壊の第一義的原因が厚生労働省の誤った認識にあったことは明らかです。


現在、この産科医療における窮状を打開しようと、無過失保障制度の導入が検討されています。

これは基本的に患者救済と産科医の訴訟リスクを軽減するためのものであり、方向性は正しいと思います。

ところが、実際に提案されている制度は、拙劣なものであるため、大きな批判がおこっています。


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産科補償制度、「助かるのは一部」
2月28日16時31分配信 医療介護情報CBニュース

 「この制度ができても産科医療は楽にならないだろう」——。厚生労働省が2008年度中に新設する「産科医療の無過失補償制度」に産科医が疑問を唱えた。医療事故で子どもを亡くした遺族らが「補償される範囲が狭すぎる」と批判しているだけでなく、現場の医師も「この制度で助かるのは、ほんの一部だろう」と指摘している。患者と産科医の双方にとって望ましい制度になるまで、道のりはまだ遠いようだ。(新井裕充)

 産科医療の無過失補償制度は、出産時の医療事故で子どもが脳性麻痺(まひ)になった場合、医師らの過失を裁判で立証しなくても補償される制度で、産科の訴訟リスクを減らして産科医不足の解消につなげるのが狙い。

 しかし、現在の仕組みのままでは医事紛争の減少や産科医不足の解消に有効ではないという声が少なくない。

 日本の医療を長期的な視点で話し合う厚生労働省の「安心と希望の医療確保ビジョン」会議(2月25日開催)で、国立病院機構理事長の矢崎義雄氏が産科医に質問した。
 「現在、産科医療の負担を減らす制度が検討されているが、実際に負担が減ると感じているか。この制度が(産科医不足の解消に)有効で、産科医療が活性化されるだろうか」

 これに対して、東京都立府中病院・産婦人科部長の桑江千鶴子氏は、▽補償金額が低いこと、▽補償される範囲が限定されていること——を理由に否定した。
 「この制度に向けて多くの先生方が努力していることは承知しているので大変申し上げにくいが、『この制度ができても産科医療は楽にならないだろう』というのが現場の感覚だ。補償額が2、500万円から3、000万円程度と聞いているが、この金額でどれだけ救済できるのか難しい」
 桑江氏はこのように述べ、約1億6、000万円の賠償金の支払いを命じた判決があることを指摘した。

 また、補償の範囲が出生体重や在胎週数などで限定されていることを問題視した。
 「医療事故による脳性麻痺の発生率は低い。本当に深刻な脳性麻痺は、事故もなく正常に産まれたが3か月たっても首がすわらないようなケースで、これが救済の対象にならないのが心配。超早産も蚊帳の外に置かれる。この制度で助かるのは、ほんの一部だろう」

■ 厚労省の関連組織が運営
 産科医療の無過失補償制度は、自民党の政務調査会が06年11月29日にまとめた枠組みに基づき、厚労省が財団法人・日本医療機能評価機構(坪井栄孝理事長)に委託して検討を進め、今年1月に最終的な報告書がまとまった。

 報告書によると、補償の対象は出産時の医療事故で何らかの障がいが残ったすべての乳幼児ではなく脳性麻痺児に限定されている。しかも、「出生時2、000グラム以上で、かつ在胎週数33週以上で脳性麻痺となった場合」のうち、重症度が「身体障害者等級の1級および2級」となっている。さらに、先天性の脳性麻痺などは医療事故ではないため補償されない。

 このため、制度創設に向けて昨年2月から12回にわたって開かれた「産科医療補償制度運営準備委員会」では、陣痛促進剤の事故で長女を亡くした委員が補償の範囲などに繰り返し反対していた。
 しかし、補償金の財源不足などを理由に「まず制度をつくるべき」「走りながら考えればいい」との意見も多く、やや強引な取りまとめをしたという経緯がある。

 委員会のメンバーは21人で、委員長に近藤純五郎氏(近藤社会保障法律事務所)、委員長代理を河北博文氏(日本医療機能評価機構理事)が担当した。残る19人の構成は、病院団体(2人)、日本医師会(2人)、法律家(3人)、民間保険会社(2人)、関連学会(3人)、大学教授(2人)、評論家などで、患者団体の代表は1人だった。
 会議の運営事務は厚労省の関係組織である日本医療機能評価機構が担当した。同機構が無過失補償制度の運営を担当する予定になっている。

 制度の枠組みを決める審議の過程を振り返ると、患者と産科医の双方にとって望ましい制度を目指したものか疑問が残る。「厚労省の天下り組織が潤うだけ」と皮肉る声もあり、新制度の行方が注目される。

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>「この制度に向けて多くの先生方が努力していることは承知しているので大変申し上げにくいが、『この制度ができても産科医療は楽にならないだろう』というのが現場の感覚だ。補償額が2、500万円から3、000万円程度と聞いているが、この金額でどれだけ救済できるのか難しい」

これでは、制度を導入する意味がありません。


>桑江氏はこのように述べ、約1億6、000万円の賠償金の支払いを命じた判決があることを指摘した。

これでは、医療事故を経験した患者家族のなかには「訴訟をすればもっともらえるのに」と考えるものがでてきてもおかしくありません。

この制度では産科医の訴訟リスクは低くならないでしょう。



産科崩壊は複合的な要素が原因でありますが、主としてつぎの4つがあげられます。

1、産科医不足による過重労働
2、刑事訴訟リスク
3、民事訴訟リスク
4、時間外手当をださないなどの報酬の不足


1、産科医不足による過重労働 は極めて拙劣な医師数抑制政策を15年以上にもわたって行ってきた厚生労働省の失政の結果ですから、対処することが一番難しいと思われます。

ところが、2、3、4、は即座に対応できるのです。

故意のものでないかぎり、産科医は原則刑事免責にする。

そして、不当な民事訴訟を抑えるため、民事訴訟賠償額上限の設定を行う。

さらに、多くの医療事故にあった患者を救済できるような、国庫を財源とする無過失保障制度の創設。

加えて、時間外手当など、労働者としての当然の権利を産科医にあたえること。



このくらいは、政治主導で行うべきではないでしょうか?